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 一週間ね・・・と呟きながら、隼人は恭弥の身体を組み敷く。

 「跳ね馬のヤツによろめかないように・・・ 一週間分」

 恐ろしげな宣言を、耳元にささやく。

 「今夜は、寝かさないぜ?」

 「わぉ。明日出発なんだけど・・・」

 軽く歪めた唇に、唇を重ね抗議を封じる。

 「飛行機ン中で、いくらでも寝る時間はあるだろ?」

 ため息だけが、返事だった。

 隼人は乱れたすそを割り、太ももにゆっくりと手を這わせる。

 「思ってたとおり・・・だな」

 「何が?」

 「すごく、色っぽい・・・お前の浴衣姿、そそるぜ」

 首筋へと舌を這わせると、隼人の愛撫に吐息を漏らしながら、恭弥は身体をよじり、帯を緩めた。

 「・・・俺がいくら頼んでも、浴衣着なかったくせに」

 「こうなることわかってるから、さ。それに・・・せっかく純和風に作ったんだからここでは、このスタイルで ─── んっ・・・」

 はだけた胸の、感じやすい部分へと歯をたてられ、思わず声を漏らす。軽い痛みのあとの舌での口撃に、恭弥の身体は早くも蕩け始める。

 まだ新しい、畳の匂い・・・肌の感触・・・絞り込まれた間接照明の明かり・・・いつもと違う部屋 ─── 恭弥の浴衣が立てる、シーツのそれとは違う衣擦れの音。

 「・・・・!」

 ふいに、身を起こした隼人は、ふーっと少し苛立った吐息をもらし、髪の毛をがしがしとかきあげた。

 「・・・どうしたの?」

 しどけない姿のままの恭弥の問いかけに、

 「 ─── 落ち着かねぇ・・・」

 ぼそりと答えた。

 「何か、この部屋・・・広すぎて落ち着かねぇ」

 そう?と部屋を見回す恭弥は、別に何も感じないらしい・・・だが、よくよくみれば二十数畳もありそうな部屋の真ん中だ、しかもやたら天井も高く、いつもなら纏わりついてくるような互いの息遣いも、どこかへ抜けていってしまうようだ。

 「なぁ・・・帰ろうぜ?俺たちの部屋へ・・・」

 身を起こし、浴衣の前をあわせる恭弥を抱き寄せ、隼人は子供のように呟く。

 「 ─── わかったよ」

 よしよし、と隼人のアタマをなで、その身を開放させると、恭弥は立ち上がった。部屋の隅へと足を進め、壁の一部に触れる。そこに、スクリーン状のものが現れ、

 「草壁は・・・戻ってる?」

 恭弥の問いかけに、

 「ただいま、戻りました」

 草壁の姿と声が、応えた。

 「・・・来て」

 短い言葉で、呼びつける。壁のビジョンが消え、程なくふすまの向こうから草壁の声が響いた。

 「お呼びですか」

 「うん、入って・・・」

 その言葉に、隼人は慌ててシャツのボタンを留める。

 「何か?」

 恭弥の方は、帯をぶらさげたまま、かろうじて前をあわせる程度だが、慌てる様子もなく、また、対する草壁の方も動じる様子がない。

 「戻ったばかりで悪いけど。家まで送ってもらえる?」

 「恭さんも、ですか?」

 「うん、僕ももどるよ。明日の朝、迎えに来て」

 「わかりました・・・車、まわしておきます」

 直前まで、この部屋で何が行われていたか気づかぬはずはないのに、草壁は顔色ひとつ変えぬまま部屋を出て行った。隼人だけが、どぎまぎと赤面している。

 「すぐ支度するから・・・」

 恭弥が振り返る。

 「・・・支度って?」

 「着替えるよ。このままじゃ帰れないし・・・」

 「浴衣、脱いじまうのかよ?」

 それは、ちょっと惜しい気が・・・と隼人は指を咥えるが、恭弥はさっさと隣室へと消えてしまった。だだっ広い部屋に一人取り残され、隼人は胡坐をかく。

 「ここは・・・俺の居るべき場所じゃねぇ・・・な」

 いじけた呟きも、空間に飲み込まれてしまった。

更新日:2015-08-30 20:33:22

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