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景色に揺れる記憶




「おーアオイちゃん!元気にしとったかやー」


「しとったよ!おじちゃん変わらんねえ!」


「ほーかね?オレは暑い日ほど元気だもんでね~」



水面に揺れる金魚が涼しそうに泳いでいる。



「あぁ、ヒュウガくんもおるじゃないか!
 浴衣が似合うねえ。美男美女ってねえ。」



今度は俺の顔を見ながらそんなことを言うから
はは、と笑って返した。
この日に焼けたおっちゃんは毎年鳥居のすぐそばで屋台を広げてる。
多分俺たちが祭りに来るようになる前からずっと。


そんな見知った顔が店を広げる
この町の祭りが昔から好きだ。





じゃあまたねと一言置いて
金魚すくいの屋台から離れてから
またしばらく歩いているうちに「あ!」と隣でアオイが声を上げた。



「言おうと思ってたのに忘れてたや・・・」


「なに?あのおっちゃんに?」


「あの金魚、まだ生きてるんだよって。」


「祭りですくったやつ?・・・・え、それって」


「小5のときのこの日にすくった金魚!」


「うそ。」


「ほんと!」



驚いた。

まだハッキリと覚えてる。
あの頃はこの向日葵の浴衣じゃなかった。
水色の地に黄色の帯で
柄は・・・覚えていないけど。




小学5年生のこの日。
お母さんにやっていいよと言ってもらえたと
嬉しそうに小銭を握り締めていたアオイの隣を
いつものように歩いていた。




アオイはいつも金魚が飼いたいと言っていた。
あの赤い色が好きだって。
水の中を楽しそうに泳ぐからって。

だけどちゃんと世話出来ないだろうと言って
いつもは優しいアオイの母さんも金魚すくいだけは許さなかった。


その約束を守って、やらない代わりに
毎年じっと屋台の水槽の前をしゃがんで動かないから
まだ若かったあの日焼けのおっちゃんに顔も名前も覚えられた。



それで小学5年生の今日
ようやく説得できたのと喜んでいた。



『わぁ~!おじちゃんありがとう!』



嬉しそうに笑うアオイの手には
赤い金魚が3匹、袋の中で揺れていた。





更新日:2015-08-26 21:04:35