• 68 / 75 ページ

神童の憂鬱

僕の周りは女の子ばっかりだった。
別にそれが嫌なんじゃない。
ふんわり優しく笑いかけてくれたら僕も嬉しい。
だけど…男の子のお友達とうまくいかないのは、そのせいかもって誰かが言っていて、その言葉が何だか嫌だった。

「そーた君も一緒にお風呂入る〜?」
歯磨きしに行った気配が伝わったのか、お風呂から声が響いてくる。
「蒼汰君も…?
 それならお姉ちゃん、どっちか先に出た方が…。」
「えー千鶴、お母さんのヘアパック借りちゃったし、もうちょっと」
「お姉ちゃんいいなー。美宇も使いたい〜。」
「美宇ちゃんは自分の…あ、蒼汰君…どうする?」
賑やかで、みんな大好きな人達なんだけど、何だかそこに入り辛そうに思えた。
「蒼汰は、お父さんと入ろうな?」
ふわっと体が浮いたと思ったら、お父さんの顔が近くにあった。
お父さんの抱っこは一番高くなるから、大好きだ。
僕はお父さんとよくにてるっていつも言われるけど、大人になるとお父さんみたいになるのかな。
「……一人で入る。」
「そっか、偉いな。」
「一年生になるし。」
「そうだな。」
そう言ったっきり、お父さんは何も言わないで、背中を何度か軽く叩いた。

「一人で入るらしいから。」
お父さんはそうみんなに言ってから、僕を抱っこしたままリビングに行った。
後ろから、お姉ちゃんたちが僕に何かを言ってる声がする。
別に嫌なんじゃ無い。
大好きだし、一緒に遊んでもらえると嬉しい。
お父さんのことだって大好きで、自慢のお父さんだ。
でも今は、誰にも何も言いたくなかった。

更新日:2022-11-27 07:46:28

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook