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天使達の日常
井七里駅が見えてくると、大人しく私に手を繋がれて歩いていただけだった美宇ちゃんが、嬉しそうに目を輝かした。
駅が近付き、やっと駅前の町並みが目前になったので、ほっとしたのだろう。
「もうちょっと・・・ね、美宇ちゃん。・・・歩けそう?」
「うんっ!」
美宇ちゃんが、元気良く頷いた。
生まれたばかりの頃の美宇ちゃんは髪の毛も真っ黒で、お姉ちゃんのちーちゃんと本当に瓜二つだったけど、幼稚園に通うようになって少し経った頃から、髪が少し茶色がかってきて、毛先に癖も出てきた。
ちーちゃんは目の形以外は義人さん似だけれど、美宇ちゃんは大半が私似のようだった。
携帯を取り出し、GPSの画面を開き、まだ移動していない事を確かめる。
「お姉ちゃん、まだ居るみたい。」
そう耳にした美宇ちゃんは、益々嬉しそうに笑った。
ちーちゃんには幼稚園の頃から携帯を持たせていて、私と義人さんの携帯から、位置が解かる様にしてある。
ちーちゃんは、幼稚園の頃から真っ直ぐ家に帰って来る事が少なく、よく色々な所にそのまま遊びに行ってしまっていたので、今どこに居るのか解からないという事は危ないんじゃないか、という話になったからだ。
そして両親が有名人・・・特に今は海外でも名の知れた作曲家、中塚義人の娘であるという事で、考えたくは無いけれど、もし万が一何かがあった時の為にという事も、理由の一つに有る。
幸いにしてその様な事は一度も起こった事が無く、ちーちゃんがメールをしたりするなど、持たせた携帯は専ら遊び道具の様になっていた。
美宇ちゃんは幼稚園が終わると、そのままバスに乗ってちゃんと大人しく帰ってくるけれど、一応・・・という事で、ちーちゃんと同じ様に美宇ちゃんにも携帯を持たせている。
けれども美宇ちゃんは、ちーちゃんの様に携帯を使いこなしてはおらず、たまに携帯で撮った画像を見せてくれたりする程度で、殆どが幼稚園のバッグに入れっぱなしの様だった。
駅の手前でロータリーに沿う様に曲がって歩いて行くと、狸の絵が描かれた看板が目に入る。
その看板が掲げられた所が、ちーちゃんが『おじじ』と呼んで慕っている社長さんの会社だった。
狸が会社のトレードマークになっているのは、社長さんの苗字が田貫さんだからなのだそうだ。
「失礼します・・・。」
玄関の扉を開けると、そこには、安川さんの隣で宿題をしているちーちゃんの姿があった。
「あっ、お母さん!・・・と美宇ちゃん!」
ちーちゃんが驚いた顔で振り返ると、それを見た美宇ちゃんが即座に駆け寄った。
「どうしたの?美宇ちゃん。お母さんとお買い物?」
「んーん・・・。あのね、みう・・・・・・おーじさまがね、くるんだって。」
「王子様が来るの?」
ちーちゃんは少し驚いた顔のままに尋ねた。
「ん。」
美宇ちゃんが、とても嬉しそうに頬を緩めた。
「リュークさん、用事で近くまで来てるって、お父さんの方に電話があったの。・・・もう少しで駅前に着くんだって。」
「師匠1人?赤毛のおばちゃんは?」
「今日は、リュークさん1人みたい。・・・・・・すみません、いつもちーちゃんがお世話になってて・・・。」
改めて、社長さんと安川さんに頭を下げる。
すると2人は、気にしなくて良いと言った風で、軽く笑顔を浮かべた。
「ワシらも今ちょうど帰って来た所でのぅ・・・。ちー坊、1人で宿題やっとったらしいですわ。」
ちょっと手荒に安川さんから頭を撫でられたちーちゃんは、嬉しそうに歓声を上げた。
ちーちゃんは学校の宿題を、家に帰って来るまでに済ませてしまう事が多い。
国語の教科書の音読が毎日必ずあるので、お仕事中の義人さんに気を使っているのだろう。
幼稚園の頃から、ちーちゃんはお仕事中の義人さんに対しての気遣いを何も言われずに自分で覚えていて、本当に良く出来た子だと思う。
「おや、お揃いでしたんかいな。」
後ろでドアの開く音と、関西弁の男の人の声が聞こえた。
駅が近付き、やっと駅前の町並みが目前になったので、ほっとしたのだろう。
「もうちょっと・・・ね、美宇ちゃん。・・・歩けそう?」
「うんっ!」
美宇ちゃんが、元気良く頷いた。
生まれたばかりの頃の美宇ちゃんは髪の毛も真っ黒で、お姉ちゃんのちーちゃんと本当に瓜二つだったけど、幼稚園に通うようになって少し経った頃から、髪が少し茶色がかってきて、毛先に癖も出てきた。
ちーちゃんは目の形以外は義人さん似だけれど、美宇ちゃんは大半が私似のようだった。
携帯を取り出し、GPSの画面を開き、まだ移動していない事を確かめる。
「お姉ちゃん、まだ居るみたい。」
そう耳にした美宇ちゃんは、益々嬉しそうに笑った。
ちーちゃんには幼稚園の頃から携帯を持たせていて、私と義人さんの携帯から、位置が解かる様にしてある。
ちーちゃんは、幼稚園の頃から真っ直ぐ家に帰って来る事が少なく、よく色々な所にそのまま遊びに行ってしまっていたので、今どこに居るのか解からないという事は危ないんじゃないか、という話になったからだ。
そして両親が有名人・・・特に今は海外でも名の知れた作曲家、中塚義人の娘であるという事で、考えたくは無いけれど、もし万が一何かがあった時の為にという事も、理由の一つに有る。
幸いにしてその様な事は一度も起こった事が無く、ちーちゃんがメールをしたりするなど、持たせた携帯は専ら遊び道具の様になっていた。
美宇ちゃんは幼稚園が終わると、そのままバスに乗ってちゃんと大人しく帰ってくるけれど、一応・・・という事で、ちーちゃんと同じ様に美宇ちゃんにも携帯を持たせている。
けれども美宇ちゃんは、ちーちゃんの様に携帯を使いこなしてはおらず、たまに携帯で撮った画像を見せてくれたりする程度で、殆どが幼稚園のバッグに入れっぱなしの様だった。
駅の手前でロータリーに沿う様に曲がって歩いて行くと、狸の絵が描かれた看板が目に入る。
その看板が掲げられた所が、ちーちゃんが『おじじ』と呼んで慕っている社長さんの会社だった。
狸が会社のトレードマークになっているのは、社長さんの苗字が田貫さんだからなのだそうだ。
「失礼します・・・。」
玄関の扉を開けると、そこには、安川さんの隣で宿題をしているちーちゃんの姿があった。
「あっ、お母さん!・・・と美宇ちゃん!」
ちーちゃんが驚いた顔で振り返ると、それを見た美宇ちゃんが即座に駆け寄った。
「どうしたの?美宇ちゃん。お母さんとお買い物?」
「んーん・・・。あのね、みう・・・・・・おーじさまがね、くるんだって。」
「王子様が来るの?」
ちーちゃんは少し驚いた顔のままに尋ねた。
「ん。」
美宇ちゃんが、とても嬉しそうに頬を緩めた。
「リュークさん、用事で近くまで来てるって、お父さんの方に電話があったの。・・・もう少しで駅前に着くんだって。」
「師匠1人?赤毛のおばちゃんは?」
「今日は、リュークさん1人みたい。・・・・・・すみません、いつもちーちゃんがお世話になってて・・・。」
改めて、社長さんと安川さんに頭を下げる。
すると2人は、気にしなくて良いと言った風で、軽く笑顔を浮かべた。
「ワシらも今ちょうど帰って来た所でのぅ・・・。ちー坊、1人で宿題やっとったらしいですわ。」
ちょっと手荒に安川さんから頭を撫でられたちーちゃんは、嬉しそうに歓声を上げた。
ちーちゃんは学校の宿題を、家に帰って来るまでに済ませてしまう事が多い。
国語の教科書の音読が毎日必ずあるので、お仕事中の義人さんに気を使っているのだろう。
幼稚園の頃から、ちーちゃんはお仕事中の義人さんに対しての気遣いを何も言われずに自分で覚えていて、本当に良く出来た子だと思う。
「おや、お揃いでしたんかいな。」
後ろでドアの開く音と、関西弁の男の人の声が聞こえた。
更新日:2015-08-17 18:01:33