• 41 / 75 ページ

天使達の聖夜


「メリークリスマ~~~ス!」

「・・・美宇が起きるだろうが。」

コップ片手に、楽しそうに言った永瀬のおじさんと朱美おばちゃんに、お父さんが注意した。

「千鶴、美宇ちゃん見てくる?」

「そうだなぁ・・・・・・今の所、大丈夫そうかな。」

仕事部屋に置いてあるベビーベットを眺めて、お父さんが笑いながら言った。

ベビーベッドで寝てる美宇ちゃんは、千鶴には良く見えないけど、動いてる感じもしないし、お父さんの言ってるとおりなんだと思う。

美宇ちゃんは最近歩いたりも出来るようになって、もう寝てばっかりの赤ちゃんじゃないけど、美宇ちゃんのお昼寝用に、あのベビーベッドはまだ仕事場においてある。

美宇ちゃんが産まれる前までのお父さんの仕事場は、今よりもっと機械がたくさんあったんだけど、おうちのおとなりに建てたスタジオにほとんどお引越ししたから、今は美宇ちゃんと千鶴がそこで遊んでも大丈夫なくらいになった。

「ジンも来れば良かったのにね~。」

朱美おばちゃんがももちにそう言ったけど、ももちは全然気にするようすも無く、嬉しそうにケーキを食べている。

ももちの口元には、生クリームがちょっとだけ付いたままだ。

でも、ももちらしいし、別に良いよね~。

「アイツ、デートとかなんか?いつもだったら、義人ん家なら喜んで来んだろ?」

「なんかねー、バンド関係の子らと本宮で集まるんだって。でも、どうやらお目手の子は居るみたいよ?」

「マジかよ。アイツもそんな歳になったか~。俺ももう爺さんだな。ももー、甥っ子が出来る日も近いぞ・・・って甥っ子って解かんねーか。・・・もも、にーたんになるぞ、にーたんに。」

「もも、にーたん?」

「そうだぞー、にーたんだ。凄いなー、もも。」

「もも、にーたんになるっ!」

ももちは元気よく、フォークを持ち上げて叫んだ。

朱美おばちゃんは、永瀬のおじさんをちょっと呆れた様な顔で眺めてるけど、いつもみたいに怒る事はしなくって、楽しそうにしている。

ももちが産まれてからは、永瀬のおじさんと朱美おばちゃんの喧嘩の回数が減ったって、お父さんが言ってた。

ジンが永瀬のおじさんの言ってた事を聞いたら、「俺のいねぇトコで勝手な事言うなよ!」って怒るかもしれないけど、いないのが悪いんだから、しょーがないよね~。

今日は、永瀬のおじさんと朱美おばちゃんとももちが家に来て、クリスマスパーティーをする事になった。

ジンも来たがってたらしいんだけど、『つきあい』ってので抜けれないみたいな事を言ってた。

でも、朱美おばちゃんが言ってた感じだと、そっちに行きたくて行ったのかな~。

ジンが今いる所は、たかさき駅の近くにあるライブハウス。

朱美おばちゃんが言ってた『本宮』っていうのは、たかさき駅から少し歩いて乗り換える、井七里まで伸びてる線路の方の駅。

おんなじ場所にあるのに、駅の名前がちがうのは何でかなぁって思って、千鶴が幼稚園の頃にお母さんに聞いたら、たかさき駅の電車と本宮駅のある電車は、べつべつの電車なんだって教えてもらった。

乗り換えるときにちょっと歩くのは、それでなんだって。

この井七里の辺りの人は、こっちに繋がってる電車の方がみじかだから、のりかえの駅の辺りを本宮って呼ぶんだけど、今日ジンがいるライブハウスは、どっちかって言うと、たかさき駅の方が近い。

それでも朱美おばちゃんには、あそこは本宮のライブハウスみたいだった。

そういうのを『地元愛』って言うらしいんだけど、千鶴にはまだ良くわかんない。

千鶴が大きくなって、旅館のおかみさんになったら、わかるのかな~。

更新日:2015-08-17 17:38:32

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook