• 17 / 75 ページ

天使達の集う里

手元の携帯にメールが届く。

フォルダを開けると、そこには例の監督からのメールがあった。

監督所有の携帯電話は海外・・・つまり日本でも使える仕様だと言う事は、予め監督から聞いていた。

仕事に熱中していたら気付かないかもしれないがと念押しした上で、道中何か解らない事が有れば連絡を・・・と、携帯のアドレスと番号を伝えていた。

日本の電車に乗ってみたいからと、最寄り駅まで電車で来るとの事だったが、ここ井七里までは途中から単線の路線に乗り換えなければならず、初めての・・・しかも外国人にはややこしいかも知れないとも思った為だ。

しかしながらその監督は、特には問題無く乗り換えも済んだ様で、今届いたメールによると、無事最寄駅に着いたとの事だった。

これからタクシーに乗るそうなので、俺の家の住所を念の為に再び添えて、運転手に伝えてくれといった内容でメールを送信した。

カナに監督があと数分で着くだろうからと伝えると、彼女は普段と変わり無い笑顔で頷き、キッチンに向かった。

恐らく、コーヒーの準備をしてくれるに違い無い。

俺の横ではまだ千鶴が寝ているが、監督との話はリビングですれば良いから、このまま寝かせておけば良いだろう。

ピアノを弾いていても起きない事が多いし、もし目が覚めたとしても、千鶴が機嫌悪そうにぐずる事は今まで一度も無かった。

・・・監督の名前は、リューク=ヴァソール。

現在も大学に席を置く身でありながら、フランスで行なわれた某映画祭にて受賞し、突如、一躍有名となった。

当初は、バカンスを利用した趣味の作品で公開は予定していないと言って居たのだが、その名が知れ渡るにつれ、公開を望む声も増えた為に公開に踏み切った・・・とネットの某サイトには記述が有った。

フランスで公開されたその作品は、主演女優の好演及びPR活動の成果もあって、劇場の動員数は当初の目論見より跳ね上がり、関係者も含め、予想外のロングランでの公開となったらしい。

主演女優のPR活動も非常に人々の関心を引いたそうで、現在監督が拠点として居るイギリスや、映画祭が行なわれたフランスを中心としたその周辺のヨーロッパの国々では、主演女優をTVに招いた特別番組等も度々報道された様だった。

その内容までは、俺が見たサイトで知る事は出来なかったが、監督の作品が随分と話題になった様子は十分に伺えた。

そして、その作品が日本でも公開される事になり・・・俺に依頼が来た。

初め、現状の世界観で売れたのだから、俺が曲を担当して、かえって作品の良さを損なっては申し訳無いと返事をしたのだが、元々は俺の曲をイメージしていたのだから、それで印象が変わったとしても、そもそもがそういう作品であり、それで全く構わないという返事が来た。

そこからは非常に意思の強いさまが読み取れ、それならば・・・と引き受ける事にした。

ちょうどカナの出産も控えている為に、仕事を控えた所だったので、俺のスケジュール的には然程問題は無かった。

映画の公開の時期の事があるから、納品期限は数ヶ月程度しか取れないと言われたが、それなら出産までに間に合うので、俺としても丁度良かった。

日本で公開するにあたって多少編集する様で、その期間内でとの依頼だった。

無声映画で音楽の役割が強い事を考慮しても、元々が短編の作品なので、数ヶ月あれば問題は無いだろう。

了承の旨を伝えると、監督は直ぐに作品を送ってきてくれた。

それを一度音を消した状態で見てみると、それなりに浮かぶ物があったので、確かに監督が俺の作品をイメージしたというのも頷ける話ではあった。

その後数回やり取りをし・・・今日に至ったのだった。

った。

更新日:2015-08-17 17:27:56

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook