- 1 / 75 ページ
見習い天使の音楽会
着替えを済ませ、休憩室を出ようとすると、ちょうどマキちゃんが部屋に入って来た。
「お疲れ様~。今、平気?」
そろそろチェックインのお客様がお見えになる時間帯となりつつあり、仲居さんが休憩する時間にしては遅いけれど、忙しくてずれ込んでしまったのだろうか。
・・・マキちゃんは、産後8週間だけ産休を取った後、直ぐに仕事に復帰した。
マキちゃんが出勤している時は、朱美さんがユウちゃんのお世話をしているらしい。
朱美さんは、ももちゃんの手が掛からなくなってきて寂しかったから、ちょうど良いって言っていた。
ももちゃんもお兄ちゃんらしく、ユウちゃんの面倒をみているそうだ。
朱美さんは毎日ユウちゃんを預かってても良いとは言っているらしいけれど、圭吾さんがそういう訳にもいかないと言って、マキちゃんは以前の様な正社員では無く、パート従業員として復帰した。
やっている内容は以前と同じだけれど、私と同様、週3~4日程度の出勤となっている。
「マキちゃん、これから休憩・・・?」
「ううん。カナちゃんが帰る前に伝えておきたい事があって。」
私は明日もシフトが入っていて、今の所普段と同じ様にお母さんの手伝いをする事になってはいる。
でも、その日の状態によって突然仲居さんの手伝いに入ったりする事もあるので、何か変更があったという事かもしれない。
ここの旅館は、お休みの事とかは結構融通を付けている様で、旅館の業務に差し支えさえ無ければ、特に文句を言われる事も無く休みを取れる。
私は声優の仕事もあるから、最初の頃は物凄く気を使って居たけれど、従業員の人達が互いに仕事を回しつつプライベートの事を優先して居るのを知り、今では経理関係の事が忙しくなる月末月初以外は、思っていたよりずっと気楽にスケジュールを組ませて貰っていた。
マキちゃんの様に、一旦退職した後にパートとして戻ってきている人も何人か居て、仲居さん達から聞かされた話だと、女将であるお母さんは、従業員の生活の方を随分と優先した考え方をしている様だった。
お母さんから直接聞いた話でも、お給料を安めに設定して居る代わりに、なるべく人を多く雇える様にしているとの事だったし、極力多くの人が無理無く働ける様になっている事が伺い知れた。
お給料は『高級旅館の従業員』としては低めかもしれないけれど、それは都会に比べたらそう言えるという程度の範囲内でもあった。
ここ井七里は所謂田舎の土地であり、地元で働きたくても雇用先が少なく、そういった事柄を考慮して、お母さんはそういう風にしているのだと思う。
そもそも沢山収入が欲しい人は大抵都会に出ていくそうなので、地元の雇用対策にもなり、従業員も気楽に働けるこの方針は、非常に上手く考えられていると言え、流石は義人さんのお母さん・・・と言う他は無かった。
まだ私達が結婚する前、義人さんと一緒にここに泊めて貰った時、浴場の前で冷たい黒豆茶もサービスで頂いたけれど、あれも地元の名産だそうで、お母さんがここ井七里の土地の事を考えて居る事も良く伝わって来た。
マキちゃんが抜けた穴も、新しい従業員で補ったり、私が仲居さんの方を手伝ったりして、皆でフォローしあうのが当たり前・・・という雰囲気になっていた。
実家が農家という人が、長期間の休みを取る時もある。
私も、ちーちゃんを産んだ時は、義人さんが物凄く気を使って、かなり早い段階から休みを貰い、出産後もたまに経理の手伝いをする程度だったのに、みんな優しい言葉を掛けてくれた。
今は安定期に入った頃で未だ仕事を続けているけれど、そろそろまた産休を取る事になるのだと思う。
「明日、仲居さんの方?」
「ううん~。明日は誰も休まないし楽な方なんだけど、今日のお客様の事で・・・もしかしたらカナちゃんが帰った後に、電話する事があるかも。」
「今日のお客様で・・・?」
・・・私は一応女将のサポートという立場ではあるけれど、実際の業務については、長年ここに勤めている人達の方がずっと詳しい。
わざわざ私に聞く様な・・・しかも特定のお客様で・・・となると、どういう事なのか全く検討も付かない。
そんな私の戸惑いが伝わったのか、マキちゃんが直ぐ言葉を継いだ。
「お疲れ様~。今、平気?」
そろそろチェックインのお客様がお見えになる時間帯となりつつあり、仲居さんが休憩する時間にしては遅いけれど、忙しくてずれ込んでしまったのだろうか。
・・・マキちゃんは、産後8週間だけ産休を取った後、直ぐに仕事に復帰した。
マキちゃんが出勤している時は、朱美さんがユウちゃんのお世話をしているらしい。
朱美さんは、ももちゃんの手が掛からなくなってきて寂しかったから、ちょうど良いって言っていた。
ももちゃんもお兄ちゃんらしく、ユウちゃんの面倒をみているそうだ。
朱美さんは毎日ユウちゃんを預かってても良いとは言っているらしいけれど、圭吾さんがそういう訳にもいかないと言って、マキちゃんは以前の様な正社員では無く、パート従業員として復帰した。
やっている内容は以前と同じだけれど、私と同様、週3~4日程度の出勤となっている。
「マキちゃん、これから休憩・・・?」
「ううん。カナちゃんが帰る前に伝えておきたい事があって。」
私は明日もシフトが入っていて、今の所普段と同じ様にお母さんの手伝いをする事になってはいる。
でも、その日の状態によって突然仲居さんの手伝いに入ったりする事もあるので、何か変更があったという事かもしれない。
ここの旅館は、お休みの事とかは結構融通を付けている様で、旅館の業務に差し支えさえ無ければ、特に文句を言われる事も無く休みを取れる。
私は声優の仕事もあるから、最初の頃は物凄く気を使って居たけれど、従業員の人達が互いに仕事を回しつつプライベートの事を優先して居るのを知り、今では経理関係の事が忙しくなる月末月初以外は、思っていたよりずっと気楽にスケジュールを組ませて貰っていた。
マキちゃんの様に、一旦退職した後にパートとして戻ってきている人も何人か居て、仲居さん達から聞かされた話だと、女将であるお母さんは、従業員の生活の方を随分と優先した考え方をしている様だった。
お母さんから直接聞いた話でも、お給料を安めに設定して居る代わりに、なるべく人を多く雇える様にしているとの事だったし、極力多くの人が無理無く働ける様になっている事が伺い知れた。
お給料は『高級旅館の従業員』としては低めかもしれないけれど、それは都会に比べたらそう言えるという程度の範囲内でもあった。
ここ井七里は所謂田舎の土地であり、地元で働きたくても雇用先が少なく、そういった事柄を考慮して、お母さんはそういう風にしているのだと思う。
そもそも沢山収入が欲しい人は大抵都会に出ていくそうなので、地元の雇用対策にもなり、従業員も気楽に働けるこの方針は、非常に上手く考えられていると言え、流石は義人さんのお母さん・・・と言う他は無かった。
まだ私達が結婚する前、義人さんと一緒にここに泊めて貰った時、浴場の前で冷たい黒豆茶もサービスで頂いたけれど、あれも地元の名産だそうで、お母さんがここ井七里の土地の事を考えて居る事も良く伝わって来た。
マキちゃんが抜けた穴も、新しい従業員で補ったり、私が仲居さんの方を手伝ったりして、皆でフォローしあうのが当たり前・・・という雰囲気になっていた。
実家が農家という人が、長期間の休みを取る時もある。
私も、ちーちゃんを産んだ時は、義人さんが物凄く気を使って、かなり早い段階から休みを貰い、出産後もたまに経理の手伝いをする程度だったのに、みんな優しい言葉を掛けてくれた。
今は安定期に入った頃で未だ仕事を続けているけれど、そろそろまた産休を取る事になるのだと思う。
「明日、仲居さんの方?」
「ううん~。明日は誰も休まないし楽な方なんだけど、今日のお客様の事で・・・もしかしたらカナちゃんが帰った後に、電話する事があるかも。」
「今日のお客様で・・・?」
・・・私は一応女将のサポートという立場ではあるけれど、実際の業務については、長年ここに勤めている人達の方がずっと詳しい。
わざわざ私に聞く様な・・・しかも特定のお客様で・・・となると、どういう事なのか全く検討も付かない。
そんな私の戸惑いが伝わったのか、マキちゃんが直ぐ言葉を継いだ。
更新日:2015-08-17 17:20:13