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第四話 「グリフィリオン襲来」
アーウェイ=フォーランドがその場に居合わせたのは、単に気に食わない兄弟に対しての当てつけに過ぎない。
皇帝の座についたエスペル=フォーランドが倒したという勇者機兵隊隊長、神条正人の身柄を拘束して本土へと輸送する手筈を整えていることを知ったのは偶然である。
常日頃から傍若無人な振る舞いを重ねてきた彼に信を置く者はおらず、興味本位で宇宙へと飛び出した所で、それは帝国に於いての日常的な行いに過ぎない。
皇族の彼の行いを咎める者はおらず、それ故に歯止めの利かなくなったその行動は極端な方向へと歪んでいったのである。
帝国の保有する機兵の乗り手としての才を発揮したのも、そうした心の歪みからくる心境故の面が大きいだろう。
大義よりも感情を優先し、敵対者を貪るように薙ぎ払っていく容赦のなさは、どこか己の渇きを我武者羅に潤そうとするかのような悲愴感を感じさせるものであった。
その、戦いに飢えた男の視線が捉えたのは、事前に得た情報の通りの航路を進む輸送船の機影と、それに対して攻撃を仕掛けている藍色の機兵。
唖然としていた筈の自分の表情が、次第に笑みに歪んでいくことをアーウェイは自覚する。
退屈しのぎを求めてこの場を訪れた目前に、正にうってつけの相手が現れたとあっては、それも仕方のない事だ、と。
力によって相手を打ち負かすことを至情の喜びとする彼にとって、命のやり取りを含めた戦いすらも娯楽の1つに過ぎなかったのである。
輸送船内に囚われていた正人の位置さえ特定すれば、救出作業そのものは実に容易いものであった。
ナイトメアサイザーの腕力で強引に彼の近くまで接近し、電子錠であればリムルたちの持つ機械制御へのアクセスによって無力となる。
搭乗員の反撃のみが問題だったが、保有する機兵を無力化されて混乱したところに機兵ごと突入したことで動揺を誘えたのか、輸送船の放棄を優先して目立った反撃を受けることは無かった。
リム、そしてリルと正人は再会の挨拶もそこそこに、機兵で脱出するべく操縦席へと飛び込んだ。
リルという存在が居る為に使用されていないが、操縦席がファントムベインの遠隔操作用に複座式に作られており、これ幸いにと使用していない方の席に正人を座らせた。
全身の傷に終始表情を歪めていた正人だったが、脱出を優先する現状には苦痛を訴えることも無く、素直に彼女たちの指示に従っている。
メインの操縦席に飛び込んで輸送船を離脱すべく機体を操作しながら、リムは口を開いた。
「正人さん、固定出来ましたか?」
「大丈夫だ。こちらのことは気にしないで良い」
座席に身を沈めながら、肩で息を整えている正人の言葉が強がりであることに、気付かない訳が無い。
しかし、怪我人を同乗させた状態でもし敵の増援が現れれば、不利な状況になることは間違いなかった。
だからこそリムは返事を待つことなく機体を操作して、直ちに離脱を開始する。
ただ、このような切羽詰まった状況に於いては、悪い予感が的中してしまうというのは世の常であろう。
<リム、気を付けて! こっちに接近してくる機体があるわ!>
「えっ……!?」
宇宙空間に飛び出した瞬間に響いたのは、サブパイロットとして機体を制御している自身のもう一つの人格の警告であった。
ガーランドへの通信回線を開いて離脱を試みようと意識を割いていたが故の、判断の遅れでいる。
それを補ったのは、開いた傷口から血を滲ませながらも目を見開き、状況を確認しようと試みている正人であった。
「正面左だ。突っ込んでくる……速い!?」
モニターの端、宇宙を背景に輝いている星々の中、明らかに明滅の異なる輝きがこちらに向けて接近していることを、リムは僅かに遅れて把握した。
素早く機体に残された武装とエネルギー残量を調べ、余力の残っている両腕のビームブレイドを迎撃のために起動する。
リルは先ほど周囲に展開して待機させていたファントムベインを再起動させ、接近する相手に悟られないよう最小限の動きで迎撃のために斜角を調整した。
身動きさえ取れない正人は、せめて相手を確認してその情報を分析するべくモニターを凝視している。
機影は速度を緩めることなく、むしろ加速を加えてこちらに向けて突っ込んできているようだった。
それは大きな翼を広げた、猛禽類を思わせるシルエットをした機兵である。
皇帝の座についたエスペル=フォーランドが倒したという勇者機兵隊隊長、神条正人の身柄を拘束して本土へと輸送する手筈を整えていることを知ったのは偶然である。
常日頃から傍若無人な振る舞いを重ねてきた彼に信を置く者はおらず、興味本位で宇宙へと飛び出した所で、それは帝国に於いての日常的な行いに過ぎない。
皇族の彼の行いを咎める者はおらず、それ故に歯止めの利かなくなったその行動は極端な方向へと歪んでいったのである。
帝国の保有する機兵の乗り手としての才を発揮したのも、そうした心の歪みからくる心境故の面が大きいだろう。
大義よりも感情を優先し、敵対者を貪るように薙ぎ払っていく容赦のなさは、どこか己の渇きを我武者羅に潤そうとするかのような悲愴感を感じさせるものであった。
その、戦いに飢えた男の視線が捉えたのは、事前に得た情報の通りの航路を進む輸送船の機影と、それに対して攻撃を仕掛けている藍色の機兵。
唖然としていた筈の自分の表情が、次第に笑みに歪んでいくことをアーウェイは自覚する。
退屈しのぎを求めてこの場を訪れた目前に、正にうってつけの相手が現れたとあっては、それも仕方のない事だ、と。
力によって相手を打ち負かすことを至情の喜びとする彼にとって、命のやり取りを含めた戦いすらも娯楽の1つに過ぎなかったのである。
輸送船内に囚われていた正人の位置さえ特定すれば、救出作業そのものは実に容易いものであった。
ナイトメアサイザーの腕力で強引に彼の近くまで接近し、電子錠であればリムルたちの持つ機械制御へのアクセスによって無力となる。
搭乗員の反撃のみが問題だったが、保有する機兵を無力化されて混乱したところに機兵ごと突入したことで動揺を誘えたのか、輸送船の放棄を優先して目立った反撃を受けることは無かった。
リム、そしてリルと正人は再会の挨拶もそこそこに、機兵で脱出するべく操縦席へと飛び込んだ。
リルという存在が居る為に使用されていないが、操縦席がファントムベインの遠隔操作用に複座式に作られており、これ幸いにと使用していない方の席に正人を座らせた。
全身の傷に終始表情を歪めていた正人だったが、脱出を優先する現状には苦痛を訴えることも無く、素直に彼女たちの指示に従っている。
メインの操縦席に飛び込んで輸送船を離脱すべく機体を操作しながら、リムは口を開いた。
「正人さん、固定出来ましたか?」
「大丈夫だ。こちらのことは気にしないで良い」
座席に身を沈めながら、肩で息を整えている正人の言葉が強がりであることに、気付かない訳が無い。
しかし、怪我人を同乗させた状態でもし敵の増援が現れれば、不利な状況になることは間違いなかった。
だからこそリムは返事を待つことなく機体を操作して、直ちに離脱を開始する。
ただ、このような切羽詰まった状況に於いては、悪い予感が的中してしまうというのは世の常であろう。
<リム、気を付けて! こっちに接近してくる機体があるわ!>
「えっ……!?」
宇宙空間に飛び出した瞬間に響いたのは、サブパイロットとして機体を制御している自身のもう一つの人格の警告であった。
ガーランドへの通信回線を開いて離脱を試みようと意識を割いていたが故の、判断の遅れでいる。
それを補ったのは、開いた傷口から血を滲ませながらも目を見開き、状況を確認しようと試みている正人であった。
「正面左だ。突っ込んでくる……速い!?」
モニターの端、宇宙を背景に輝いている星々の中、明らかに明滅の異なる輝きがこちらに向けて接近していることを、リムは僅かに遅れて把握した。
素早く機体に残された武装とエネルギー残量を調べ、余力の残っている両腕のビームブレイドを迎撃のために起動する。
リルは先ほど周囲に展開して待機させていたファントムベインを再起動させ、接近する相手に悟られないよう最小限の動きで迎撃のために斜角を調整した。
身動きさえ取れない正人は、せめて相手を確認してその情報を分析するべくモニターを凝視している。
機影は速度を緩めることなく、むしろ加速を加えてこちらに向けて突っ込んできているようだった。
それは大きな翼を広げた、猛禽類を思わせるシルエットをした機兵である。
更新日:2015-08-23 11:27:32