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(エスペル=フォーランドとの戦いに敗れたことを考えれば、この場所はフォーランド帝国のテリトリーの筈だ。それと敵対している相手……)

 フォーランド帝国と勇者機兵隊が敵対することになった理由は、帝国の武力による他惑星への侵攻が原因である。
 本来であれば、他惑星への干渉を取り締まるのは星間連合の管轄であるが、強引に過ぎる行動によって命が脅かされることを危惧し、正人がそれを阻止すべく先行して出撃したのだ。
 その経緯を考えれば、敵対者は正人を追って駆け付けた勇者機兵隊の仲間である可能性が高い筈である。
 しかしそれにしては、攻撃の仕方がやや乱暴な点が気になっていた。

(星間連合の治安維持部隊、星間護兵隊……は、明確に管理惑星の人民が関わっている状況でなければ動けない決まりの筈。私が囚われていることが無明瞭な状態で、交戦状態に陥るだろうか)

 星間護兵隊とは、今は潰えた犯罪組織ハザードに対抗する為に、星間連合が新設した武装組織である。
 独自生産した機兵を戦力とし、従来の他惑星への過干渉を監視するというスタンスを越えて、過度な武力行使に対してのみその権限を使用できる独立部隊、というのが正人の知る情報だった。
 独自の裁量で動いている勇者機兵隊とは何度か現場で鉢合わせすることもある組織であり、時に協力して星間犯罪者に対処することもある。
 しかし、彼らはあくまでも星間連合の管理によって運営される”軍隊”であり、フォーランド帝国の突然の侵攻に対して素早く対処してみせることが、果たして可能なのかは微妙な所であった。
 
(残る可能性は……積載された物資を狙った星間犯罪者。一番統制の取れていない存在だけに、もし出くわせば俺の命も危ないな)

 勇者機兵隊の主だった敵として、正人自身も勇者機兵を駆り幾度となく戦いを繰り広げてきた宇宙の無法者たち。
 性格や性質はそれこそ千差万別であるが、敵対していることが分かっている相手であれば、警戒心を抱かない訳にはいかない。
 果たして、この閉ざされた部屋から抜け出した先に待ち構えているのは何なのか、想像の域を出ない情報が脳裏を錯綜して、正人は冷や汗を浮かべていた。
 状況の分からない、確認できないような場面に遭遇したのはこれが初めてではないが、何度経験しようと”わからない”ことほど恐ろしいものはないものだと、改めて思わざるを得ない。
 この状態に陥った原因が自分の不甲斐ない敗北にあるとすれば、その気落ちはより深くなろうというものである。
 とは言え、だからと言って歩みをいちいち止めている余裕は無い。

(とりあえず、状況がどうあれこの部屋を出ることが先決だ。このままここに囚われていては、いずれ皆の足を引っ張ることになる)

 遅かれ早かれ、勇者機兵隊は動く。
 隊長の指示が無かろうと、”命を守る”ことに関しては共通認識を持ち合わせている仲間たちが揃っているのである。
 その点については疑う余地も無く、であればいざ動いたその時に際して、備えられることは全て備えるべきだ。
 しかし、敗北し勇者機兵を失った今の自分に出来ることは少ない。
 その事実は、自覚している以上に正人の心に重く圧し掛かっていた。

「……勇者機兵が無ければ、こうも無力とはな」

 現状を正確に認識する為の呟きが、自嘲を含む弱気の一言のように響いてしまったのは正人の不覚であった。
 しかしそれ以上に、そのほんの僅かな気の緩みから零れた言葉に、聞き耳を立てている相手がいるとは思わなかったのである。

『そんなことは無いですよ、正人さん』

「……ッ!?」

 唐突に室内に響いた声に、正人は驚きを隠すことなく視線を巡らせる。
 声の聞こえた方向を見れば、唯一の出入り口と思わしき扉の脇に備えられた、外部通信用の装置が機能している様子が確認できた。
 その少女の声には、聞き覚えがある。

「その声、まさか……リムル?」

 4年前の事件、その当事者である少女の声。
 立場的には敵対している筈のリムルの声には、そう思わせるほどの刺々しさは微塵も感じられない。
 何故、そしてどうやってこの状況に至ったのかすら掴めない正人に対して、彼女はその動揺を見透かしたような様子で告げた。
 
『助けて頂いた恩を返しに来ました。海賊らしいやり方で、ですけど』

 その、悪戯を仕掛けるような響きを持つリムルの台詞には、正人も思わず苦笑を浮かべるしかなかったのである。

更新日:2015-08-19 22:29:34

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勇者機兵キャリバー Legend of Eternal