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第三話 「囚われの勇者」

 4年前に起きた宇宙海賊による勇者機兵隊本部の襲撃事件は、首謀者の名を取って”ガーランド事件”と呼ばれている。
 この事件はガーランドによって襲撃された輸送船の内部から、被害者を装ったリムルを勇者機兵隊が救出したことに端を発している。
 機動戦艦ダイダロスによって外側から襲撃するガーランドの動きに合わせて、本部内へと侵入したリムルが内部からの攪乱を行うと言う、二面作戦によって事件は勃発した。
 襲撃計画そのものは失敗に終わったものの、未完成であった新型の勇者機兵に接触したリムルが、誤作動によってGシステムを暴走させるという事案が発生してしまう。
 ”命を救う”ことを目的とした勇者機兵隊と、”身内を救う”ことを優先したガーランドの思惑が一致したことで、両者は共にリムル救出のために共同戦線を展開。
 新型の勇者機兵を失うという事態に陥りつつも、無事リムルを救出することに成功したことで、事件は幕を閉じたのである。
 この事件に於いて鍵となったのは、勇者機兵隊本部対して、内部へ侵入したリムルの持つ固有の能力が有効であったという点だ。
 融機人種という特異な生い立ちから得た力、機械的に制御された領域に対して生身のまま直接アクセスできるというものである。
 勇者機兵隊のシステムは超AIを含め、人間の手の関わることの無い領域によって制御されている割合が大きいことが仇となった形となり、セキュリティの構築を見直したと言うのは隊そのものの教訓となった次第である。
 偶然や結果的な判断ミスが関わったとは言え、14歳の少女でしかないリムルが保有する能力とは、規格外と称するに相応しいものであった。



 気怠い感覚を覚えながらも意識を取り戻した神条正人(しんじょう まさと)は、身じろぎ1つするだけで全身に走る激痛に顔をしかめた。
 仰向けの姿勢のまま見上げる天井に見覚えはなく、痛む身体に鞭を打って視線を巡らせたところで、白系統で統一された殺風景な部屋が映るのみである。
 率直な感想を述べるなら、軟禁されているといったところだろうか。
 意識を失う前の段階で記憶にあるのは、自らの操る勇者機兵ストライクキャリバーで敵に立ち向かい、そして敗北したという事実である。
 敵対者は獣の意匠を取り入れた機兵バーサークケルベリオンで、その乗り手はフォーランド帝国皇帝、エスペル=フォーランドと名乗っていた。
 素直に考えれば、正人はそのフォーランド帝国に拘束されたということだろう。
 その命に、生かして利用するだけの価値があることを見出したのであろうことは想像に難くない。
 しかし己の不甲斐なさを悔いるのは、この場を逃れて事を収め、落ち着いたその後でも十分である。
 そう気を取り直したタイミングを見計らったかのように、部屋全体を呑み込むような衝撃と振動が襲い掛かった。
 怪我の功名と言うべきか、不用意に立ち上がって居なかったことが功を奏した形となる。

(……ッ! この振動は、外側から受けた衝撃によるものだ。まさか、襲撃を受けているのか?)

 慣れ親しんだとは言いたくないものの、その揺れは戦場に於いて幾度となく味わった衝撃であると、思考を越えて本能的に理解した。
 自らの居るこの場所が、何者かによって襲撃されている。
 その事実は正人を困惑させたが、同時に今現在の状況を打破する為の切っ掛けになり得ることも理解していた。
 ただ1つ気掛かりなのは、動くことさえままならない自分自身の身体である。

(荒事には……少々厳しいか。だが、このまま座して待つ訳にもいかない)

 衝撃の余波で小刻みに揺さぶられたことで、身体の至る所から悲鳴が上がるのを肌で感じる正人だった。
 しかし、例えまともに身体を動かせない状態であっても、諦めるという選択肢を選ぶ訳にはいかない。
 命を守ることを選択した者が、自分自身の命を軽んじてはならないからである。
 襲撃の結果によっては、この部屋ごと宇宙空間に放り出される可能性すらあるのだから、いざという時の備えは必要だ。
 いざとなれば這ってでも進まなければならないことを覚悟する正人だったが、幸いにも激痛こそ納まらないものの、何とか立ち上がることは出来るようであった。
 内心で安堵しつつ、断片的にしか分からない現時点での情報を整理すべく思考を巡らせる。

更新日:2015-08-19 22:28:07

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勇者機兵キャリバー Legend of Eternal