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第二話 「ナイトメアサイザー」
フォーランド帝国の保有する機兵は、星間連合内で流通しているものとは異なるルーツによって生み出されたものである。
勇者機兵隊を例外として、現在星間連合を始めとした界隈に於いて主流である機兵とは、今は亡き”犯罪組織ハザード”の生み出した量産機兵、”ガイスト”の流れを汲んだものである。
組織の規模と汎用性の高さを重視したそれとは違い、これまで表舞台に出なかったことで事実上鎖国状態であったフォーランド帝国の機兵は、まさに独自の技術によって進歩してきたのだ。
その為、帝国の技術とは個の能力を競い合うことによって高められてきた歴史があり、自らの権威を示す象徴としての意味合いを持っており、帝国が保有している機兵の大半は汎用性を度外視した、乗り手に合わせた専用機として生み出されていたのである。
こうした”一騎当千機”的な流れは勇者機兵隊と酷似しており、勇者機兵隊のみが保有していたGシステムの開発に至った事実を踏まえると、詳細は不明瞭のままながら、勇者機兵隊の機兵開発のルーツに近い何かがあると考えることも出来る。
故にと言うべきか、勇者機兵隊の抱えている根本的な問題を、帝国も等しく抱えていると言えた。
物量差によって敗北に追い込まれた勇者機兵隊も抱えていた弱点、すなわち単機に戦力を集中させたが故の、絶対数の不足である。
宇宙空間での戦闘を主眼に置いて調整されているだけあり、ナイトメアサイザーの機動性は従来機に加えてかなり高い水準を維持している。
襲撃の目標である輸送艇から展開した機兵の突撃に対して、水平移動や旋回を駆使して難なく回避して見せた。
敵機は2、銃火器の類を搭載している様子は見えず、手にした長槍と全身に備えられた大型の推進器を見れば、白兵戦用に調整されていることが一目で理解できる。
付け加えるなら、両機体の基本構造は細部が異なっていて、同一規格の機体と言うよりは別系統の物を同じスペックに調整し直したような雰囲気であった。
「思ったより数が少ないね」
<帝国の機兵はオーダーメイドが多いらしいから、絶対数が少ないんじゃないかしら>
機体を操りながら、拍子抜けしたように言葉を漏らすリムに対して、リルは冷静な分析を述べる。
とは言え、機体の動作を見るにある程度の練度を持つ乗り手のようで、気を抜いて勝てる相手では決してない。
実際、相手からの攻撃を回避こそしているものの、武装の取り扱いや切り替えしなどの操縦技術そのもので言えば、自分と同等かそれ以上の腕前だろうと言うのが、2人の共通認識であった。
ただ1つ、自分たちの持つアドバンテージを除けば。
『リル、援護をお願い!』
有機人種であるリムルの、機械的な部分を司る人格であるリルが保有する能力。
機兵とダイレクトリンクすることによって、機体制御の一部を肩代わりすることが出来るのである。
機体そのものの操作を担当するリムル・リムと、搭載している武装の制御を担当するリムル・リル。
分業によって最適化されている彼女たちの、その特性を最大限に生かせる武装が展開される。
求められたリムは、その言葉に迷いなく応じた。
<任せて。ファントムベイン展開、ブラストモード!>
人員不足を補う為に宇宙海賊ガーランドが独自に開発した遠隔操作型の機兵、ガードロボットの応用によって生み出された支援用の武装”ファントムベイン”。
一言で表せば本体から分離して使用する自立砲台であり、射線や威力を遠隔操作することによって”自分自身を援護射撃する”ことをコンセプトに開発されたものだった。
ガーランド自身はこれを機体操作と同時に行っていたが、リムルは自らの特性を生かして完全に分業化することで、結果的に機兵の性能を彼以上に引き出したのである。
両肩のバインダーシールドに連結していた砲塔6基が全て分離し、光沢のない黒い砲塔がリルの指示通りに宇宙空間に散開した。
その動きに警戒した敵機兵たちが思わず身構える動作をしたことには意を介さず、リムは機体を操作して躊躇なく目標の、輸送船本体へと向かう。
慌てて追いかけようとする敵機兵へ、その推進力を狙った砲撃が多方向から降り注いだのは、次の瞬間であった。
<輸送船を背にすれば、奴らも飛び道具は迂闊に使えない筈……あれば、だけど>
実用的な機能よりも儀礼的な意匠を優先させているのか、敵の機兵には近代的な銃火器らしき武装がほとんど見られない。
支援のビーム砲を掻い潜りながら突撃してくるその技量は簡感嘆に値するが、気兼ねなく直線移動できるナイトメアサイザーに対しては、一度防衛網をすり抜けられてしまえば追撃すらおぼつかない有様である。
実戦慣れしていない、と評価すべきだろう。
その有様に、リムル・リムの脳裏に閃くものがあった。
勇者機兵隊を例外として、現在星間連合を始めとした界隈に於いて主流である機兵とは、今は亡き”犯罪組織ハザード”の生み出した量産機兵、”ガイスト”の流れを汲んだものである。
組織の規模と汎用性の高さを重視したそれとは違い、これまで表舞台に出なかったことで事実上鎖国状態であったフォーランド帝国の機兵は、まさに独自の技術によって進歩してきたのだ。
その為、帝国の技術とは個の能力を競い合うことによって高められてきた歴史があり、自らの権威を示す象徴としての意味合いを持っており、帝国が保有している機兵の大半は汎用性を度外視した、乗り手に合わせた専用機として生み出されていたのである。
こうした”一騎当千機”的な流れは勇者機兵隊と酷似しており、勇者機兵隊のみが保有していたGシステムの開発に至った事実を踏まえると、詳細は不明瞭のままながら、勇者機兵隊の機兵開発のルーツに近い何かがあると考えることも出来る。
故にと言うべきか、勇者機兵隊の抱えている根本的な問題を、帝国も等しく抱えていると言えた。
物量差によって敗北に追い込まれた勇者機兵隊も抱えていた弱点、すなわち単機に戦力を集中させたが故の、絶対数の不足である。
宇宙空間での戦闘を主眼に置いて調整されているだけあり、ナイトメアサイザーの機動性は従来機に加えてかなり高い水準を維持している。
襲撃の目標である輸送艇から展開した機兵の突撃に対して、水平移動や旋回を駆使して難なく回避して見せた。
敵機は2、銃火器の類を搭載している様子は見えず、手にした長槍と全身に備えられた大型の推進器を見れば、白兵戦用に調整されていることが一目で理解できる。
付け加えるなら、両機体の基本構造は細部が異なっていて、同一規格の機体と言うよりは別系統の物を同じスペックに調整し直したような雰囲気であった。
「思ったより数が少ないね」
<帝国の機兵はオーダーメイドが多いらしいから、絶対数が少ないんじゃないかしら>
機体を操りながら、拍子抜けしたように言葉を漏らすリムに対して、リルは冷静な分析を述べる。
とは言え、機体の動作を見るにある程度の練度を持つ乗り手のようで、気を抜いて勝てる相手では決してない。
実際、相手からの攻撃を回避こそしているものの、武装の取り扱いや切り替えしなどの操縦技術そのもので言えば、自分と同等かそれ以上の腕前だろうと言うのが、2人の共通認識であった。
ただ1つ、自分たちの持つアドバンテージを除けば。
『リル、援護をお願い!』
有機人種であるリムルの、機械的な部分を司る人格であるリルが保有する能力。
機兵とダイレクトリンクすることによって、機体制御の一部を肩代わりすることが出来るのである。
機体そのものの操作を担当するリムル・リムと、搭載している武装の制御を担当するリムル・リル。
分業によって最適化されている彼女たちの、その特性を最大限に生かせる武装が展開される。
求められたリムは、その言葉に迷いなく応じた。
<任せて。ファントムベイン展開、ブラストモード!>
人員不足を補う為に宇宙海賊ガーランドが独自に開発した遠隔操作型の機兵、ガードロボットの応用によって生み出された支援用の武装”ファントムベイン”。
一言で表せば本体から分離して使用する自立砲台であり、射線や威力を遠隔操作することによって”自分自身を援護射撃する”ことをコンセプトに開発されたものだった。
ガーランド自身はこれを機体操作と同時に行っていたが、リムルは自らの特性を生かして完全に分業化することで、結果的に機兵の性能を彼以上に引き出したのである。
両肩のバインダーシールドに連結していた砲塔6基が全て分離し、光沢のない黒い砲塔がリルの指示通りに宇宙空間に散開した。
その動きに警戒した敵機兵たちが思わず身構える動作をしたことには意を介さず、リムは機体を操作して躊躇なく目標の、輸送船本体へと向かう。
慌てて追いかけようとする敵機兵へ、その推進力を狙った砲撃が多方向から降り注いだのは、次の瞬間であった。
<輸送船を背にすれば、奴らも飛び道具は迂闊に使えない筈……あれば、だけど>
実用的な機能よりも儀礼的な意匠を優先させているのか、敵の機兵には近代的な銃火器らしき武装がほとんど見られない。
支援のビーム砲を掻い潜りながら突撃してくるその技量は簡感嘆に値するが、気兼ねなく直線移動できるナイトメアサイザーに対しては、一度防衛網をすり抜けられてしまえば追撃すらおぼつかない有様である。
実戦慣れしていない、と評価すべきだろう。
その有様に、リムル・リムの脳裏に閃くものがあった。
更新日:2015-08-13 21:45:44