- 3 / 78 ページ
第一話 「海賊少女リムル」
宇宙海賊ガーランドが勇者機兵隊と最後に交戦したのは、現在から遡ること4年前である。
当時、勇者機兵隊のみを個人的な理由から攻撃対象としていたガーランドは、宇宙漂流を装って同組織に救出させた少女リムルを利用し、内と外からの挟撃を慣行した。
作戦はその思惑のままに進むが、未完成であった勇者機兵を強奪したリムルがそのシステムに取り込まれ、暴走を始めるという不慮の事態に陥ってしまう。
これを勇者機兵隊と協力して事を収めたという顛末から、ガーランドは敵対する理由そのものを失い、帰る場所を持たないリムルと共に母艦である”ダイダロス”と共に当てのない航海を続けていたのである。
そんな気ままな旅を続けていた一行の耳にも、禁止されている筈の惑星間の一方的な干渉を行い勢力を拡大している新興組織、”フォーランド帝国”の情報は届いている。
宇宙を舞台に活動する自分たちにもいずれ関わることになるかも知れない、そんな国家に対する万が一の備えの為に、ガーランドはより多くの情報収集を行っていたからだ。
その結果もたらされた1つの情報が、彼らを驚愕させることになる。
勇者機兵隊隊長である神条正人が、帝国の皇が操る機兵との戦いに敗れたという事実によって。
宇宙の闇に溶け込むような深い藍色の装甲に覆われた機兵が、その闇に身を隠すように静かに漂っている。
頭部に掲げられた三本の大角と、砲塔と思わしき突起が取り付けられた両肩の大きな盾が特徴の機体であり、その額には海賊の意匠らしき髑髏の紋章――と言うにはあまりにもディフォルメされた可愛らしいエンブレムが描かれていた。
宇宙海賊ガーランドが保有する戦闘用の機兵、”ナイトメアサイザー”である。
その操縦席に座するのは開発者であるガーランドでは無く、彼から機体の乗り手として選ばれた年端もいかない少女だった。
彼女の名はリムル。そして今は、リムル・リムと名乗っていた。
「……この辺で良いかなぁ」
彼女は、モニターに映る光景は黒一色の変化のない景色である為、周辺の計器類とにらめっこしながら機体の現在位置を参照していたのである。
機体の操縦はともかく、細かい操作には慣れていないことを露見させている少女に対して、他に誰も居ない筈のその場から答えが返る。
<座標はそこであってるよ、リム>
「ホント? ありがとう、リル」
通信回線が開いていない筈の状況で返事が返されたという事実に、リムは驚いた様子1つ見せずにお礼の言葉を口にしていた。
声の出所は彼女の胸元、首から提げられたプレート状の飾り気のないペンダントである。
その表面部分が、まるで声の主の呼吸を表現するかのように明滅していた。
それは以前、勇者機兵隊の技術者から送られた、実体を持たない者との意思の疎通を行えるようにする為のデバイスであった。
リムルという少女の内側、機械的な特性を後天的に与えられた人間、融機人種である彼女の内側に宿るもう一つの意思。
それこそが、”リル”と呼ばれる存在なのである。
<緊張してる、リム?>
リルの呼び掛けにはリムへの気遣いが感じられ、機械的な存在であったとしてもそこには明確な彼女の意思が存在しているように感じられた。
同じ肉体を共有している別人格でありながらも、そこに感じられる意思は別のものであり、だからこそリムも彼女をただの機械的な存在では無く、自分と同じ命を分け合った”家族”という認識をしている。
そのリルからの気遣いともなれば素直に嬉しいと感じるのが自然であり、そうした心に思わず縋ろうとしてしまう程度には、リムもまだ幼い子供のままであった。
「やっぱり、リルには分かっちゃう?」
心の奥底を見透かされたような態度には気恥ずかしさを覚えつつも、思わず手が震えてしまうような心境であれば、多少なりとも胸の内を吐き出して楽になろうとしてしまうのは自然のことだ。
そうした心境を理解しているからこそ、リルも苦笑を零しながら、はぐらかすことなく真っ直ぐに受け止めて答えを返す。
<ガーランドたちも、多分気付いてたと思うよ。けど、貴女がやるって言ったから止めはしなかったけどね>
「うぅ……」
率直に過ぎるリルの指摘には、リムもバツの悪い表情を浮かべるしかない。
その反応から察するだけでも、彼女がいかに感情を表に出しやすい性格をしているかが分かる。
実行するという宣言を素直に受け取って貰えたのはリム自身の仁徳ではあったが、それでも実は心の内を見抜かれていたとあっては、素直に喜ぶことを躊躇うのも無理はない。
当時、勇者機兵隊のみを個人的な理由から攻撃対象としていたガーランドは、宇宙漂流を装って同組織に救出させた少女リムルを利用し、内と外からの挟撃を慣行した。
作戦はその思惑のままに進むが、未完成であった勇者機兵を強奪したリムルがそのシステムに取り込まれ、暴走を始めるという不慮の事態に陥ってしまう。
これを勇者機兵隊と協力して事を収めたという顛末から、ガーランドは敵対する理由そのものを失い、帰る場所を持たないリムルと共に母艦である”ダイダロス”と共に当てのない航海を続けていたのである。
そんな気ままな旅を続けていた一行の耳にも、禁止されている筈の惑星間の一方的な干渉を行い勢力を拡大している新興組織、”フォーランド帝国”の情報は届いている。
宇宙を舞台に活動する自分たちにもいずれ関わることになるかも知れない、そんな国家に対する万が一の備えの為に、ガーランドはより多くの情報収集を行っていたからだ。
その結果もたらされた1つの情報が、彼らを驚愕させることになる。
勇者機兵隊隊長である神条正人が、帝国の皇が操る機兵との戦いに敗れたという事実によって。
宇宙の闇に溶け込むような深い藍色の装甲に覆われた機兵が、その闇に身を隠すように静かに漂っている。
頭部に掲げられた三本の大角と、砲塔と思わしき突起が取り付けられた両肩の大きな盾が特徴の機体であり、その額には海賊の意匠らしき髑髏の紋章――と言うにはあまりにもディフォルメされた可愛らしいエンブレムが描かれていた。
宇宙海賊ガーランドが保有する戦闘用の機兵、”ナイトメアサイザー”である。
その操縦席に座するのは開発者であるガーランドでは無く、彼から機体の乗り手として選ばれた年端もいかない少女だった。
彼女の名はリムル。そして今は、リムル・リムと名乗っていた。
「……この辺で良いかなぁ」
彼女は、モニターに映る光景は黒一色の変化のない景色である為、周辺の計器類とにらめっこしながら機体の現在位置を参照していたのである。
機体の操縦はともかく、細かい操作には慣れていないことを露見させている少女に対して、他に誰も居ない筈のその場から答えが返る。
<座標はそこであってるよ、リム>
「ホント? ありがとう、リル」
通信回線が開いていない筈の状況で返事が返されたという事実に、リムは驚いた様子1つ見せずにお礼の言葉を口にしていた。
声の出所は彼女の胸元、首から提げられたプレート状の飾り気のないペンダントである。
その表面部分が、まるで声の主の呼吸を表現するかのように明滅していた。
それは以前、勇者機兵隊の技術者から送られた、実体を持たない者との意思の疎通を行えるようにする為のデバイスであった。
リムルという少女の内側、機械的な特性を後天的に与えられた人間、融機人種である彼女の内側に宿るもう一つの意思。
それこそが、”リル”と呼ばれる存在なのである。
<緊張してる、リム?>
リルの呼び掛けにはリムへの気遣いが感じられ、機械的な存在であったとしてもそこには明確な彼女の意思が存在しているように感じられた。
同じ肉体を共有している別人格でありながらも、そこに感じられる意思は別のものであり、だからこそリムも彼女をただの機械的な存在では無く、自分と同じ命を分け合った”家族”という認識をしている。
そのリルからの気遣いともなれば素直に嬉しいと感じるのが自然であり、そうした心に思わず縋ろうとしてしまう程度には、リムもまだ幼い子供のままであった。
「やっぱり、リルには分かっちゃう?」
心の奥底を見透かされたような態度には気恥ずかしさを覚えつつも、思わず手が震えてしまうような心境であれば、多少なりとも胸の内を吐き出して楽になろうとしてしまうのは自然のことだ。
そうした心境を理解しているからこそ、リルも苦笑を零しながら、はぐらかすことなく真っ直ぐに受け止めて答えを返す。
<ガーランドたちも、多分気付いてたと思うよ。けど、貴女がやるって言ったから止めはしなかったけどね>
「うぅ……」
率直に過ぎるリルの指摘には、リムもバツの悪い表情を浮かべるしかない。
その反応から察するだけでも、彼女がいかに感情を表に出しやすい性格をしているかが分かる。
実行するという宣言を素直に受け取って貰えたのはリム自身の仁徳ではあったが、それでも実は心の内を見抜かれていたとあっては、素直に喜ぶことを躊躇うのも無理はない。
更新日:2015-08-08 10:26:11