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第九話 「執念の足音」

 大鷲のような翼型スラスターと、両腕の鉤爪が特徴的なシルエット。
 フォーランド帝国の皇子、アーウェイ=フォーランドの専用機”グリフィリオン”は、重力圏の内外を問わず運用できるよう設計された、高機動型の機兵である。
 その特徴は何と言っても乗り手の安全性を度外視した圧倒的なまでの推進力であり、その点に関して言えばスペック上では勇者機兵ストライクキャリバーすらも凌駕していた。
 そして乗り手であるアーウェイの、人並み外れた気性の荒さがその恐ろしさに拍車を掛けているのである。
 宇宙海賊ガーランドによる、神条正人救出作戦の現場に偶然居合わせた彼は、その際に交戦しておきながら見逃すことになった機兵、ナイトメアサイザーに執着していた。
 因縁だとかそういうものでは無く、己の求めるままに戦いを望みながら、そこに水を差された形になったことに対しての鬱憤を晴らしたいという、ただそれだけのことである。
 たったそれだけの拘りで、アーウェイはその惑星へと辿り着いた。
 交戦記録から割り出した敵の戦艦と機体のデータ解析から、周辺を循環していた星間連合の監視部隊への襲撃による情報収集、更には奪った物資による機体の調整。
 圧倒的な機体性能を見せびらかすような振る舞いをして周囲に恐怖を撒き散らしながらも、そのこと自体に頓着しない異常性は、”狂気”と呼ぶのが相応しいだろう。
 制御不能な暴力そのものとなったアーウェイの導き出した解答こそが、機体のカメラ越しの目前に浮かぶ、青色の星。
 その名は、惑星シルヴァンス。
 神条正人を伴い、宇宙海賊がその身を隠していると推測される星である。



 予感、と言うべきか。
 リムル・リムの胸中に浮かんだ漠然とした不安は、神条正人とその母清花の再会によってもたらされた和やかな空気を感じるほどに、大きくなっていった。
 それは事実として、この場に留まっていることそのものが正人の体力の回復と、ガーランドの情報収集を待つという時間稼ぎの意味合いを持っているからである。
 海賊である自分たちはもとより、勇者として戦う道を選んだ正人がこの星に留まる訳にはいかない。
 そしてここを離れるということは、いずれにせよ戦いに身を投じることになるのである。
 ましてや、自分たちを狙っているであろう敵の存在を思えば、その不安はより大きくなるというものだ。
「……ねぇ、リル。正人さんがここに居ること、いつまで隠し通せると思う?」

<フォーランド帝国の情報網がどれ程のものかは不明瞭だけど、長くは持たないと思うわ>

 もう一人の自分、リムル・リルの淡々とした意見には、リムも同意であった。
 相対したフォーランド帝国の機兵、グリフィリオンと交戦した彼女たちは、執拗に迫る乗り手の抱えている”執念”を感じた。
 別行動しているガーランドはその目的から、極力目立たないよう行動するのが自然である。
 加えて、怪我人を抱えて宇宙からの干渉をほとんど受けていない惑星に逃げ込めば、その痕跡の全てを隠し通すことは難しい。
 そもそも、発見された場合の手段こそ確保しているものの、極力行使することは避けたいという思惑もある。

「ナイトメアサイザーは預かってるけど、出来ればこの星で戦いたくはないなぁ……」

 勇者機兵隊が直接干渉したという事実もあって、星間犯罪者たちの干渉をほとんど受け付けなかった惑星であるシルヴァンス。
 そこに戦いの火種を持ち込んでしまう行為に罪悪感を覚えるのは、原住民である清花の素顔を目の当たりにしたという一面が大きい。
 息子である正人と行動を共にしていたとは言え、深く追求することもなく受け入れてくれたことに対する感謝の念も、そうした思いに捉われる要因であった。

<そうね。諍いが無い訳はないでしょうけど、宇宙からの干渉が無いだけでここまで穏やかに感じられるとは思わなかったわ>

「私たちみたいな怪しい人間でも、受け入れてくれたもんね」

<流石は正人さんのお母さん、ってところかしら>

 自分たちが持ち込んだ形となった火種とは言え、恩を仇で返す真似は避けたいというのが、リムルたちの本音である。
 しかし同時に、こちらの準備が整うよりも先に敵に攻め込まれた時は、実力行使を用いてでも退ければならないという使命感が、その胸の内に芽生えてもいた。
 それはおそらく、”母”という存在を目の当たりにしたことに起因する感情であろう。

更新日:2015-10-03 21:41:15

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勇者機兵キャリバー Legend of Eternal