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第六話 「突然の再会」

 神条正人の生まれた惑星の名を、シルヴァンスという。
 地球によく似た青い星の一角にある、ごく小さな国に生まれた彼は、幼い頃に父親を亡くして母親の手で育てられた。
 技術的なレベルは決して高い方では無く、宇宙進出の技術も未発達の分野であったために、他惑星からの干渉でもなければ星間連合と繋がることの無い、騒がしくも穏やかな日常に満ちた星だったのである。
 その平穏が打ち砕かれる光景を目の当たりにしたのは、正人がまだ少年の頃だった。
 星間連合の監視を潜り抜けて惑星内に侵入したのは、宇宙海賊<ヴァリアント・シザーズ>を名乗る荒くれ者たち。
 星間連合はおろか、同じ立場の星間犯罪者たちにも敬遠される程の残虐性を抱いた彼らの行いは、感情に任せたままの略奪行為である。
 運悪く襲撃の現場に居合わせた正人の目前で、暴力によって理不尽に打ち砕かれていく平穏。
 その中には彼をたった1人で育ててくれた母の姿もあり、怪我を追って身動きの取れなくなったその姿を前に、正人は何もかもが失われてしまう事への恐怖を味わったのである。
 そんな彼の命とその心を救ったのは、同じく空の向こうより現れた存在であった。
 深紅の巨大な鋼の体躯と、その手に握り締めた一振りの剣は、まさしく危機に瀕した自身を救うために舞い降りた救世主そのもの。
 巨大な真紅の剣士は単身でヴァリアント・シザーズに立ち向かい、次々と討ち果たしていった。
 その光景は、戦いを知らず平穏な日々を謳歌していただけの少年の心に、理不尽に対して無力であった自らの弱さを知らしめると同時に、確たる信念を貫くために力が必要な時もあるのだということを教えてくれたのである。
 正人の心に新たな価値観を植え付けた存在の名は、勇者機兵隊隊長、ルーンカイザー。
 この当時は、後に彼の跡を継いで自らが隊長になる未来など、誰一人想像していなかったのである。



 暖かいものに包まれた感覚と、身体の内側からにじみ出る倦怠感を覚えながら意識を取り戻した正人は、ゆっくりを目を開いた。
 目に突き刺さるような眩しい光は部屋の照明では無く、脇の窓から差し込んでくる光のようである。
 混乱する記憶を無意識の内に整理しながら、正人はこの場所が意識を失う前に見た宇宙戦艦の中ではないということだけを認識した。

「正人さん、気が付きましたか?」

 視線を巡らせるよりも早く、すぐ傍らに控えていた少女の言葉が耳に届く。
 長く動かしていなかったらしい身体は軋みを上げていた為、視線だけをそちらに向けた。
 そこにあったのはやはりと言うべきか、見知った顔である。

「……リムル。俺は、どれぐらい意識を失っていたんだ?」

 同じ戦艦に乗り合わせ、窮地に陥っていた自身を助けてくれた宇宙海賊の少女、リムル・リム。
 心配を掛けたことに対する申し訳なさより、今の状況に意識が向くことに不義理を感じない訳では無かったが、彼女が気分を害した様子はない。
 そして正人の質問に対しての回答は、彼女の胸元のペンダントから返された。

<ガーランドと別れてから、2日程経っているわね>

 リムルのもう一つの人格、リルの意思を発信する為の機能を伴ったアクセサリーには見覚えがある。
 4年前のガーランド事件が解決した際、勇者機兵隊の技術者、レオナ=ラージスが制作したものだ。
 今までリムを介してしか己の意思を訴えることが出来なかったリルの意思をより正確に伝え、2人の存在によって血気に逸るガーランドを諌めることを期待して、である。
 その目論みは、今こうして正人を助けてくれたという結果を見るに、成功だったようだ。
 立場的に言えば敵対している筈の正人とリムルたちが、こうして穏やかに話し合いの場を持てるというのが、その証拠と言えるだろう。

「ガーランドと? それで今はダイダロスから降りているのか」

 正人はリルの返答から、現時点で判明している情報の裏付けが取れたことを確認する。
 母艦であるダイダロスをガーランドが使用する為、自分たちがこの場に残されたということだ。
 彼の目的に関しては知る由もないが、今はそれよりも自らの身の回りの事情を察するべきであると、正人は判断した。

「それで、今俺たちは何処に居るんだ?」
 
 全身に掛かる重圧と肌で感じられる空気が、惑星の重力圏内に居るような感覚を覚えさせている。
 大気圏を越える衝撃を受けていながらその記憶がないと言うことは、自分で思う以上に身体へのダメージは大きかったということだ。
 その状態で運び込まれたということは、今いるこの場所は敵対者に襲われる可能性の少ない地域だと推測される。
 が、そこに至るまでの経緯を知らなければ、地域そのものを特定することは難しい。

更新日:2015-09-12 10:26:12

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勇者機兵キャリバー Legend of Eternal