• 12 / 78 ページ

第五話 「不安の先の日常」

 宇宙海賊ガーランドの母艦ダイダロスは、勇者機兵隊に単独で攻撃を仕掛けると言う経緯から、一撃離脱の戦術に特化した構造をしている。
 外回りに追加されたリアクティブ・アーマーによって被弾時の被害を最小限にすると同時に、増設された大型エンジンによる推進力の強化、更には艦の前方に火力を集中させたその姿こそが、その全貌であった。
 更に、その極端なコンセプトから長期戦には向かないことを考慮して作られたのが、座標軸を指定せずに一定の距離以上をランダムに空間転移する、”ランダムワープ”の能力であった。
 敵からの追跡を困難にするこの能力によって、宇宙海賊ガーランドは少数精鋭という立場でありながら、今日に至るまで生き残ることが出来たのである。
 神条正人救出作戦に於いても、このランダムワープによる撤退までが作戦の内であったが、合流直前のタイミングでの機兵グリフィリオンの干渉は想定外であった。
 白兵戦に限定されるとは言え、勇者機兵隊の機兵とも渡り合えるだけの性能を持つと言われるフォーランド帝国製の機兵の性能は、従来の機兵の価値観を覆す程に高い。
 ほんの僅か、ガーランドの咄嗟の判断によって幸運にもリムルたちを伴って戦域から離脱できたことによって得られた情報とは、そのようなものであった。
 正面からぶつかることが得策ではないと判断するには、充分である。



 戦艦ダイダロスは戦域を離れ、ガーランドが補給用にあらかじめ用意していた中継基地に辿り着いていた。
 ワープによる消耗を除けば特別ダメージのない戦艦に対して、搭乗機であるナイトメアサイザーの破損箇所は少なくない。
 特に、防御した腕ごと吹き飛ばすような一撃を受けたことで、その関節に掛かる負荷が駆動系に干渉する程に歪んでいた事実に、搭乗者のリムルたちは背筋の凍る思いを味わっていた。

「思ったよりダメージは大きいようだな」

 ガーランドの言葉に棘は無く、純粋な感想として呟かれただけのものであったろう。
 しかし、動揺するリムル・リムにして見ればその言葉は叱責のように受け取れるだろうし、それは冷静に状況を分析できるリルとて同じことである。

「ごめんなさい……」

「気にするな。あれは敵の方が上手だった」

 2人分を代表してのリムの謝罪には、ガーランドも間髪入れずにフォローを口にする。
 彼女たちの生真面目な性格を理解しているからこそ、その反応もまた予想の範囲内であったために、極力相手を刺激しないように努めたという訳である。
 ダイダロスの制御を行う超AI、リロードに言わせれば”子煩悩”に他ならないと称される対応であるが、それを口にすれば漏れなくガーランドの癇癪タイムが始まるという寸法であった。
 幸いと言うべきか、リロードは現在な調整しているナイトメアサイザーとリンクし、グリフィリオンとの戦闘データ解析を行っていた為、そのような出来事は回避された。
 そんな裏の事情など知る由もない立場に居る者は、ただ起きた出来事に対する感想を口にし、次に繋げるよう試みるだけである。

<グリフィリオン……あの加速力は尋常では無かったわ。あれがフォーランド帝国の保有する機兵の性能なのね>

 リムのサポートをしていたリルもまた、戦闘中に得られた敵機兵のデータを独自に解釈していた。
 撤退を試みたナイトメアサイザーの推力を上回るグリフィリオンの加速は、乗り手への影響を度外視したものであると言うのが彼女の結論である。
 死角からの攻撃であった筈のファントムベインによる射撃を回避して見せたのは操縦技術もあるが、想定を逸脱したスペックによる部分が大きい。
 その機体を操ることが出来るとすれば、フォーランド帝国の戦力とは乗り手、機体性能共にこちらを大きく上回っていることになる。
 勇者機兵を倒したという話は疑いようのない事実ではあるが、それを現実として認識することは、また違った衝撃を受けるものであった。

更新日:2015-09-06 09:07:43

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

勇者機兵キャリバー Legend of Eternal