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no title

 外で鳴った物音に、骸は立ち上がりかけ、再び椅子に腰を落とした。

 午前4時半・・・遅めの新聞配達の足音が遠ざかる。

 目の前に並んだ料理は、夕べから手付かずのまま・・・きっちりラップをかけられた皿には、少し焦げ目の目立つハンバーグが二人分。蓋をされた鍋の中身は、コーンスープ。

 冷蔵庫の中には、サラダだって入ってる・・・。

 いっしょに食べるはずだった綱吉は ─── 夕べから帰らない。

 「獄寺クンと飲みに行くから」

 携帯の向こうから聴こえてきた声は、少し冷たく。

 「・・・遅くなると思うから」

 「食事は?」

 とりあえず訊いてみた骸に返って来たのは、

 「いらない」

 という、にべも無い返事で・・・ぷっつりと途切れた通話は、それ以来、音信不通。何度か携帯にコールしてみたが、反応ナシ。

 沈黙したままの携帯で、コツコツと額を叩く・・・ため息しか出てこない。

 「どこいっちゃったんですかね・・・綱吉クン」

 獄寺が一緒・・・という事は、少なくとも事件に巻き込まれて帰れないわけではないだろう。獄寺の魔の手に堕ちる可能性がないとはいえないが・・・まぁ、ないだろう。

 「やっぱり・・・アレですかねぇ」

 思い当たるのは、おとといの、喧嘩。

 「ちゃんと、話すつもりだったんですよ?」

 テーブルに突っ伏した骸の口から漏れた呟きを、受け取る相手は、手にしたノートだけ。

 ぱらり、と開けば・・・イタリア語と日本語の入り混じった、料理のレシピ。

 事の発端は、三ヶ月前の春。綱吉の母・沢田ナナに勧められて料理教室に通う事になった。もちろん、綱吉には内緒。

 「むくろ君て、手先が器用だし・・・きっと料理も上手だと思うわ」

 無邪気に勧められ、断るに断れず ─── まぁ、綱吉の為にもなるかと、うなずいてしまったのが運のツキ。あれよあれよと云う間にハナシは進み、気がつけば、週二回、エプロン姿で女性に混ざって料理を習う自分がいた。

 カラーコンタクトで瞳の色をカバーし、自分を模索中の就職浪人という触れ込みで、周囲に適当に合わせれば、親切この上ない待遇だ。最初のうちは、たまに試食した残りの料理を持ち帰っていたのだが、その内、試食前に持ち帰り用として詰めてくれるまでになり、持ち帰ったはいいが、綱吉への言い訳に苦労した。

 スーパーの惣菜を買ってみた、綱吉の母が持って来た・・・etc.

 「母さん・・・こんな料理作ってたかな・・・?」

 「テレビの料理番組を見て作ったらしいです。試作品だから味見を・・・と」

 苦しい言い訳をすること、数回。そろそろ、限界を迎えてきた今日この頃・・・

 そして、事件は起こってしまった。

更新日:2015-08-02 19:28:20

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