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「風紀委員よりも風紀委員してる奴」

 あれから俺は無事一人暮らしを始めることができた。

 行きたくもない進学校になんか入学することになってしまったが、一人暮らしを認められる条件が、「県外の進学校に受かること」以外なかったから仕方がない。勉強は嫌いだが、まぁ俺の頭ならなんとかなるだろう。

「へー、中途半端に都会してんなぁ、この街は……」

 俺、蒼井千尋は今日、地元からそれなりに離れた有名進学校に入学する為、東京から越してきた。地元の仲のいい友達と離れるのは少し寂しかったが、まぁこっちでもすぐに友達はできるだろう。友だち作りは苦手じゃない。
 
 だが、東京と比べて店も少ないだろうし、ほしいものが手に入らなかったり、不便な生活が強いられることになるのだろうか。

 新たな土地を見回してみれば、中途半端な高さのビルがまばらに建ち、空を見上げれば、青と白の綺麗なコントラストが拝み放題だ。高層建物が少ないなんて、なんて典型的な田舎。いや、この県に住む人にとってはここも都会か。

 中途半端な街の割には、道路を走る車の量が半端じゃない。あれか、田舎は買い物行くにも車を出すと聞いたが、そういうあれか。


「……まぁとりあえず、新居行くか」

 一人暮らしへの期待と、一抹の不安を胸に、俺は無駄に広い四車線道路の歩道を歩き始めた。


***

「あー、疲れた。もう外出たくねえ……」

 家具家電付きの物件を借りたので、引っ越しは思ったよりスムーズに澄んだ。
 
 段ボールの中身も大体出し、部屋もある程度片が付いた頃には窓の外は真っ暗になっていた。それも、道に街灯がないから本当に真っ暗。

「もう夜か。腹減ったなあ……。あれ、食べるもんねえや、コンビニでも行くか」

 バイトも探さなくちゃなー、と一人ごちながら、俺は最寄りのコンビニに行くため部屋を後にした。

 俺の部屋はアパートの一階にある。戸締りきちんとしなくては。

 そこまで古いアパートではないが、決して綺麗でもない。
 自転車を15分ほど漕げば高校に着く、一人暮らしにしては微妙に不便な位置に、そのアパートはある。

 そこを選んだ理由は、近所に大きなスーパーがあるから。さらに目の前にはコンビニ。あと家賃も安いし、一人暮らしにはなかなか向いている。

 これから俺は自分一人で生きていかなければならない。
 入試の成績で学費は全額免除になった。あとはバイトでもして生活費と学費を稼げば、なにも親に頼ることのない、完全なる自立した生活が送れる。

 「……やってやるよ。一人暮らし。あいつらを絶対見返してやる」

 にっ、と口元を三日月型に曲げ、俺は軽い足取りで、向かいのコンビニへと向かった。


更新日:2015-07-22 21:53:57

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