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ゲットー

 ツィーニャはその時間、まだベッドに横たわっていた。
 彼女はここ数日の囚人生活で、自分にすっかり怠け癖がついてしまったなと思っていた。
 これがいつものテリトリーの中で自由の身だったら、全然違う事をしていたはずだった。彼女は仕事以外のプライベートでも常に何かしらやっていて、ひと時も休む暇などなかったのだ。

 彼女の実家の部屋には、床が埋まるほどのパソコン類があった。まるでペットでも飼っているように、日々その機械の管理をする必要があった。
 外から入ってきた情報を受け取り、整理して、自分からもネットを通して情報を流すのだ。その他にも、個人でしている趣味の研究があった。ツィーニャには一日二十四時間では短すぎるといっても過言ではなかった。


 しかしここへ来て強制的に何もしない生活を与えられると、彼女はだんだんベッドに寝ている時間が長くなっていった。
 そこにゴロリと横になって、脈絡のない思想に耽るのだ。彼女の頭の中はその為に変わらず活発だったが、考えている内容自体はいつもの思考とはまるで違っていた。
 ツィーニャは現実に今起こっている出来事や人、自分の仕事など、あらゆるものをどこかへ閉まって鍵をかけてしまった。
 そしてその代わりに彼女がしたのは想像だった。想像でこの刑務所の内部を、自分なりに楽しいシチュエーションに作り上げていったのだ。

 ───建物の中にはどんな人物がいて、どんな設備があるのか。囚人や看守や管理者などの生活は、どのように行われているのだろうか。

 彼女は昔に読んで、印象に残っている本を思い出した。そして自分がナチに追われて隠れるユダヤ人の少女だと想像してみた。
 こうした“ごっこ遊び”は、彼女が小さい頃にはよくやっていた事なのだ。
 ツィーニャは熱を出して寝込むと、よく部屋の中でこうした遊びをした。そして自分の想像した世界について、時々看病にやってくる母親に話して聞かせたりしていた。



 この朝も、ツィーニャはただぼんやりと窓の外を眺めていた。
 空は晴れた良い天気だから、ここは海辺の修道院の中だ‥と思う事にした。

更新日:2015-07-23 12:35:26

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ORIGIN180E ハルカイリ島 収監編 1