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 新学期が始まったばかりで、授業はどれも教師の自己紹介と簡単な挨拶、それから年間の授業計画といったかんじで、本格的な勉強は週明けからになりそうだった。

 新入生の歓迎会やら部活の紹介といった学校行事も続き、毎日が忙しい。数多くある教室を覚えるのも、一苦労だ。

 金曜日の放課後を迎え、寮の部屋で輪はうーん、と伸びをした。

 まだ数日だが、だいぶこの部屋にも慣れてきて、教室よりも落ち着ける場所になっていた。

 あれから座敷童は現れなかったし、もちろん金縛りも幽霊を見ることもない。

 「やっぱり、夢だったんだなー♪」

 緊張してヘンな夢を見ただけか、と輪は納得し、ほっとした。

 (だいたい、【イヌカイ】とか【座敷童】とかってなんだよ)

 我ながら、ヘンな夢だと苦笑する。

 「楽しそうだな、リン」

 声に振り返ると、宮元は肩に担いだ荷物を下ろしている所だった。

 「何、それ?」

 「ああ、バットだよ。実家の親父に送ってもらったんだ」

 野球部に入るかどうか迷っていたが、決めたらしい。

 「やっぱり、俺には野球しかねぇからな」

 バットが入ったケースを愛しそうになでる宮元を、輪はほんの少しうらやましく思った。

 (オレには、打ち込めるものがないからな・・・)

 小さい頃から、身体を鍛えるためにいろんなスポーツの教室へ通わされた。水泳から始まり、剣道、合気道、少年野球にも入ったが、どれも長続きはしなかった。かろうじて剣道だけは二年間続いたが、それとて上達はしなかった。

 「リンは?部活、どうするんだ?」

 全員参加ではないらしい部活動だ、リンは迷わず帰宅部と決めていた。

 「大和先輩には、ボクシング部に来いって云われたけど・・・オレには無理だよな」

 「あはは、あの人、がっかりするぞ?」

 ボクシング部は入部希望者が少ないらしい。

 「でも、オレが入っても、足ひっぱるだけだよ」

 曖昧に笑って、輪は誤魔化した。そうか?と宮元も笑顔を見せ、それ以上は追求しない。ケースから取り出したバットに、満足げな眼差しを向けた宮元は、

 「ちょっと、素振りしてくるわ」

 と鼻歌交じりで、出て行った。

更新日:2015-07-26 15:27:26

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