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 入学して十日も経つと、学校生活にも寮生活にも慣れてくる。クラスの顔ぶれも名前と顔が一致するようになり、席替えが提案された。

 もっとも、男子ばかりでは席替えに伴う期待も何もあったものではないのだが・・・

 「近くなると、いいな」

 クジの箱に手を入れながら言った宮元に、輪はうなずく。

 黒板に書かれた配置図と、紙に書かれた番号を照らし合わせ宮元は小さく口笛を吹いた。

 「列はさんで、隣だ」

 「あ、ホント?」

 どれどれ、と紙に書かれた番号を覗き込み、笑顔を見せた輪だったが・・・荷物を持って移動しようとした瞬間、顔を引きつらせた。

 移動予定の場所の隣の席に、すでに座っていたのは・・・宮元が『近寄るな』と警告した氷川の姿。

 「氷川君の・・・隣ぃ?」

 顔を引きつらせ、小さく呟いた輪に、宮元も眉をひそめる。

 「俺が、変わる」

 宮元の言葉に、輪はうなずきかけたが、思いとどまった。この前の一件を考えると、そちらのほうが危険に思える。

 「だ、大丈夫だよ。宮元もそばにいるし ─── ずっと、この席のままってわけじゃないんだから」

 ね、と笑顔を見せた輪に、宮元は渋面をつくる。

 「ほら、早く移動しないと・・・」

 早く席につくようにと教師がうながしている。仕方なく、隣の席に腰をおろし、輪は精一杯の笑顔を作った。

 「よ、よろしくね、氷川くん」

 「ああ・・・」

 愛想のない声と、冷たい視線だけが、返事だった。

 (うっわー、最悪・・・)

 ちらり、と反対側の宮元を見る。氷川に向けた眼差しが、険悪そのものだ。

 (み、宮元・・・だめだって)

 前途多難、そんな言葉が頭に浮かび輪は盛大なため息をついた。

 近寄らぬつもりが、こうして隣になってしまったのだから、仕方ない、何とか仲良くしようと輪は試みる。

 だが、輪が仲良くしようとすればするほど、氷川の視線は冷たくなっていった。話しかければ、返事は返ってくるが、ぶっきらぼうな短い返答のみ。

 もっとも、氷川のつっけんどんぶりは、他の生徒に対しても同じで、輪をほっとさせたが、時折、刺すような視線が向けられるのは、痛かった。

 宮元に云えば、喧嘩になるので云えない。

 喧嘩っぱやく、しかも強い、という噂だ。だが、それも、向こうから売られたものに対してだけで、氷川の方から仕掛けることはないらしい。

 「そんなに悪い人じゃないみたいなんだけど・・・」

更新日:2015-08-27 17:14:11

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