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あらぬ事

さて、翌9月9日のこと、母親がこんなことを言いました。

母 「もうじき、車検なんだけど、いつも頼んでるJ自動車
が火事で焼けちゃったでしょう?どこか、安くやってくれる
ところってないかしらねぇ?」

私 「あぁ、それなら…、たしか同級生のH君が整備士にな
ったはずだから…、どこか安そうなところ紹介してもらおう
か?」

母 「それは、ありがたいね、聞けたら聞いてみてよ」


その日の夕方、というか、夜、この時間ならH君は帰宅して
るだろう…という時間帯に、私は久々H君の家に電話をして
みました。

思えば、H君とは中学卒業以来会っていませんでした。

休みの日、H君の家の近くでたまに姿を見かけることはあっ
ても、私はたいていバイクで走っていたせいか、立ち止まっ
てまで話そうとは思いませんでした。

私 「もしもし、同級生の○○ですが、H君いますか?」

電話に出たのは知らない人の声でした。

一瞬、番号を間違ったかな?とあせったのですが、
相手は、最初無言で、「ちょっと待ってください」とだけ
言うと、しばらくまた無言電話が続きました。

無言電話なのに、なんだか、ざわざわと多くの人がいる気配
がしました。

そして、

H君の父親 「あ…、もしもし、Hの父親ですが…」

私 「同級生の○○ですが、ご無沙汰してます…。
H君はもう帰ってますか?」

父親 「………。 Hは、亡くなったんですよ…」

私は、次の言葉を失くしました。

H君の父親は冗談を言えるような人柄ではなかったので、
瞬時にマジだ…と思いました。

曜日と時間帯からして、お通夜か?と、咄嗟に思いました。

私 「ええっ?いつのことですか?」

父親 「昨日の夜です。仕事帰り、大雨の中で事故に遭った
んですよ」


電話を切ってから、私はなんだか、いたたまれない気がしま
した。

昨日の夜といえば、浪人の身でありながらC市まで遊びに
行って、その帰りパチンコで儲けて喜んでいた…、まさに
その時間帯じゃないか…。

片や、H君は整備士として新型車の発売に臨み毎日遅くまで
残業をしていたようでした。


私は電話を切るとすぐ、中学校の卒業名簿を片手に、
わりと近くに住む小学校時代からの同級生何人かに電話を
かけ、H君の訃報を伝えました。

案の定、子供には横の繋がりなどなく、誰もH君のことは
耳には入っていませんでした。


翌日、奇しくも縁遠くなっていたU君の家に同級生が集まる
ことになりました。

そこから歩いてH君の家に行ったのですが、見回すとA君の
姿がありません。

それもそのはず、A君は北海道に下宿していたのですから…。

私は、誰かA君の住所か電話知ってるヤツいないか?と訊ね
ましたが、誰も電話番号は聞いてなくて、どうにか住所だけ
はわかりました。

私は内心「お節介かもしれない、でも、自分がお節介しなかっ
たら、ここにいる連中のように、A君はずっとH君の訃報を
知らないままになってしまうかもしれない」と思いました。


はたして、私はその日H君の訃報を知らせる旨手紙を書き、
A君に送ることにしたのです。


そうしたら、数日後、A君から私の家に電話がかかってきま
した。

A君 「手紙くれて、ありがとうな…。心苦しいけど北海道
からHの冥福を祈ることにするよ。酪農の実習で牛の世話を
してるし、すぐにはそっちには帰れそうもないんだよ…」

私 「ああ、わかったよ。みんなに会ったらそう言っとくよ」

A君 「おお、悪いな。ところで、おまえから手紙が届いた
日の明け方に、変な夢を見たんだよ」

私 「変な夢?」

A君 「ああ。おまえとか、Uとか、卓球部のときの仲間みん
なが北海道まで遊びに来たんだけどな…、なぜか…、Hだけが
来なかったんだよ…。そうしたら、おまえから手紙が届いた…」

私は、少しだけ背筋が冷たくなるのを感じました。

でも、次の瞬間には「あぁ、お節介じゃなかったんだ…」
そう思い直しました。

私 「みんなの気持ちが俺の手紙に乗っかっていったんだろう
な…、Hは不意に亡くなっちゃったから、遊びに行きたくても
行けなかった、ってことなのかもな…」

A君 「まあ、そのへんのことは、また今度話そうや…、
じゃあ、またな」

享年、十九でした。

まだまだ、これからなのに、成人式も迎えないまま逝って
しまいました。

でも、私は、H君を不憫とは思わないことにしました。

人それぞれ、宿命とか運命とか、目に見えない何かに支配され
ているのだろうし…と思ったからです。

ただ、毎年命日くらいはお墓参りして、H君の在りし日のこと
を偲ぼう…と思いました。

更新日:2015-07-12 17:22:30

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