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 俺は思わずコスプレを振り仰いだ。

「あんた…仮にも天使なんだろ?」

「だからなんだ? お前こそ知っているか? 天使は天からの使い。死を留まらせる者というよりは死後の世界へいざなう者だぞ」

「それはどっちかというと死神とか悪魔なんじゃないのか」

「ものは捉えようだ」

 コスプレは妙な笑顔でこちらを見下ろした。目が合う。不思議な感じがした。心の底から俺のことを面白がってるのが分かる…気がする。

「もっと簡潔に言うならこれから死ぬ者を天国へ導くべきか地獄へ導くべきか選定する者、とした方が分かりやすいか」

「……なりきりってすげえな…」

「なにか言ったか?」

「いや別に…」

 これから死ぬ人を選定する、か……。天使の定義をそういう風に言う人は初めて見たかもしれない。斬新だな……。

「じゃあ俺はどのみち死ぬとして、それをあんたはこの会話で選定してるんだ」

「それはどうだろうな」

 コスプレはふっと笑って海を見た。前言はどうしたと食いつこうとした手前、天使は言葉を続けた。

「お前はどちらかというと生にしがみついているように見えるが」

 思わぬ言葉に俺が驚いていると、コスプレは興味深そうに、足はそのままに上半身だけを折ってさながらホラーのような顔の倒れ方で俺の顔をのぞきこんできた。天使の目が見開かれている。俺は思わずぎょっとして身体がかたまった。

「生きていたくてしょうがないのが今でも分かっているのに、それをもっと確信したくてわざわざ死を選ぶ場所に足を運んできたように見える。いやはや面白い」

「……あんたこそ面白すぎるだろ……」

 俺は顔を引きながら低く言い返した。

 のぞき込んできたコスプレの顔自体は意外と美人だった。それも飾らなくてもいい美人。生まれつき美人っていう世の中の女が嫉妬するタイプのやつ。

 化粧もしてるんだかしてないんだか分からない。それなのにまるで自分の格好を気にしない乱暴な所作。しゃがみこんですっと顔をのぞき込んで来ればそれなりにセクシーな感じになるだろうに、野生児みたいに立った姿勢の上半身だけ曲げて顔を横にして、目を見開いて……軽くホラーだよ…もったいない…。

「……あんた、なんでこんなところでこんなことしてるんだ……?」

「私は天使だからな」

 ……なりきりだったな、聞いた俺がばかだったよ。

 天使は上半身を起こして元の立ち姿勢になると切り返してきた。

「それに、お前の言葉、そっくりそのままお前に問おう」

「……?」

「お前はなんでこんなところでこんなことをしているんだ?」


更新日:2019-10-31 11:09:35

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