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 おい、ともう一度声をかけられて、俺は違う意味で死にたいと思いながらそいつの元へと歩いて行った。あいにく俺はコミケとかも写真を見るだけで参加したことはないタイプなんだ。そんな俺のコスプレとの絡みの初手がなりきりだなんてもうどう関わればいいのか分からない。

 そんな俺の内心とは裏腹に、砂浜の踏み心地はとてもやわらかくて自然と足が進んでしまう。改めて自殺の名所なんて嘘だと騙された気分になる。

「もう一度聞く。お前、ここに何しに来た」

「別に……初対面相手に言うことでもないので……」

「自殺だろう」

 すぱんと言い当てられる。分かってんなら聞くなよ。

「海に入って死ぬのか? それとも向こうの崖に登って飛び降りるのか?」

 一瞬視線をちらりと向こうへやって、崖を示される。視線にならって崖を見つけた俺はなるほどと思った。

「へえ、崖もあるのか……」

「……お前、本当に自殺しに来たのか?」

 ……腹立つな。

「じゃああんたはなんなんだ。ご親切に自殺の場所まで言ってくれちゃって、そのコスプレはなんのためだよ。皮肉か?」

「私は天使だ」

 そんなの見りゃ分かるっつの。

「ここを通る人間は大体海に入るか崖を目指す。お前もそれを知ってここを通るのだと思ったから、当然の会話を持ちかけたつもりだ」

 う…。調べが甘かったのは認めざるをえない。

「……勢いで来たから何も知らないんだよ……」

 ちょっとバツが悪くなってふてくされたように言い返すと、コスプレは興味深そうに相づちをうった。

「面白いな」

 失礼な奴だ。コントみたいな展開に巻き込まれてそれどころじゃないけど、一応これから自殺しようとしてる奴を面白いだなんて。

「急がないならその「勢いで来た」経緯を聞かせてくれないか」

「……それがあんたのやり口なら聞かせてやるよ」

 俺はなげやりに答えて、コスプレが示した彼女の立つ岩に腰かけた。


更新日:2019-10-31 10:44:42

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