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 有給を消化して、リフレッシュのために休んだってことで再開した俺の社会人生活。

 あの浜辺での出来事も、先輩との話の濃さに埋もれてかけていた。

 ある夜、ベッドに寝転んでスマホをいじっていたときだ。

 検索の履歴一覧に「心霊スポット 天使 掲示板」というワードが残っているのが目に入った。

 懐かしくなって、俺は改めて検索ワードを考えてみた。

『自殺の名所 浜辺 天使 黒髪』

 気楽に検索をかけた。

 トップはなんのキャラクターなのか、天使の女の子のフィギュアの画像。

 次が自殺の名所で新たに発見された自殺者の報告と今年の自殺者数についてのニュース記事。

 その次。

『自殺未遂者が体験した生死の狭間での不思議な出来事10選』

 不思議な出来事ねえ……。川の手前で祖母や祖父、父母兄弟に会ってまだ来ちゃダメだって言われたとかそういう類のやつかな。

 タップしてページを見てみる。

 大きな扉があったけどいくら叩いても開いてくれなかったとか、花畑にいたけど落とし穴に落ちたとか、割と王道な体験談が続いていた。その中で。

「黒い髪で美人な天使に説教された…?」

 思わず声に出して読み上げてしまった。思い当たる節がありすぎる。何やら特集されてるようで、リンクを開いてみる。

 そこにはちょくちょく叩かれながらも、先輩と調べた時よりも具体的なことが書かれてあった。

 そんなに死にたいなら死ねばいいって天使に見放されてこのまま死んだら地獄行きかもと怖くなってやめたとか、腹立つ口調に死ぬ気が失せたとか、美人だけど男前とか、思い出せることが列挙されていた。

 そして最後に。

『信じられないだろうし信じてもらわなくても結構だけど、あんな自然に羽がはばたくわけがないから、あれは本物だと思うんだ。ま、コスプレの一言で済まされてもしょうがないけど』

「…羽…」

 そういえば……。

 振り返る時や、何かをするとき、気付かない程ごく当たり前のように羽ばたいていた……よう、な……?

 全体的に羽の動きまで見てなかったから確信は持てないけど、でもあの最初、俺が顔上げた時に目が合ったあの時、確かにゆるく羽ばたいていた気がする。風のせい…? いや、あの日は無風だったわけじゃないけどああいう大きな羽が動くほどの強風でもなかった。

 まさか……?

 しばらくページを読むでもなく見つめて、俺は頭を振って考えるのをやめた。

 コスプレだか本物だか、そんなのはどっちだっていいことだ。

 とにかく俺は死ぬ気をなくした。あいつはそれに成功した。それでいい。

 そういえばあの時めちゃくちゃかっこ悪い捨て台詞を吐いた気がする。

 それに対してあいつはいつまでも待ってるって言ってたっけ。理由は俺が面白いからとか…。

 本物の天使なら見ててくれよ。俺は心の中で天使に向かって言った。

 あんたが言う「面白い」生き方してるか見ててくれよ、どうせしばらくこっちから会いに行くつもりはないからさ。

 確かに俺は生にしがみついてるのかもしれない。ここで死んでたまるかっていう気持ちがどこかに芽生えてるのは間違いなかった。



 お前はまったく面白いな、そんな声がどこからか聞こえたような気がした。

更新日:2019-10-31 11:41:15

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