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 なにもかもが嫌になったとき、「隠れ自殺の名所」というサイトで見た地方のとある海に出向いたことがある。
 そこで俺は不思議な体験をした。



 隠れとはいえ名所といわれて、地元としては警戒するんだろう。そういう意識の人には自然と目につくあちこちに、小さく「もう一度よく考えよう」とか「誰かに相談しよう」とかそんな文句が書いてある看板がたっていた。

 正直な話、自殺を考えてここに降り立つ人はそれなりによく考えてここに来たんだろうし、誰にも相談できなかったり誰かに相談したけどまともに取り合ってもらえなかったからそうなったんだろうから、ああいう文句は自殺を食い止めるには力が弱いんじゃないかと思う。あくまで俺の個人的な意見だけど。

 とにかく、俺もそういう文句は目に留めながら踏みとどまることなく海へたどり着いた。本当は詳しい行き方までは調べてなかったんだが、ご丁寧に海への道にそって自殺防止の看板が並んでいて道に困ることがなかった。なかなか笑える皮肉な道しるべだ。

 しかし。
 ついた浜はとても自殺の名所とは思えないくらいきれいだった。

 時期を外したのもあって確かに人気はないが、それにしたってゴミがひとつも捨てられていない砂浜なんてきっと今のご時世とても珍しいだろう。

 ところどころに黒い影が見えるが、それはゴミや打ち上げられた海藻なんかじゃなくて、ただ元からそこにある岩っぽかった。

 海も、強すぎず弱すぎずの風に吹かれて絶妙な波と波音を運んできている。

 俺は着いて早々、景色に見とれた。我に返って顔をしかめる。

 サイトの言葉や駅からここまでの看板の文句よりもよっぽど力がある。

 くそ…どこが自殺の名所だよ……。こんな場所で死のうなんて、考えてるだけでも罰が当たりそうじゃないか……。

 でも来てしまっただけに、何もしないで帰るのもなんだか情けない……。

 俺が砂浜で立ち尽くしたまま迷っていたときだ。

 ふと視界のすみに妙なものをとらえた。


更新日:2019-10-31 10:33:53

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