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絶望の雨

 私はリコ。この、庭付き二階建ての家に住んでいる。

食事は高級缶詰。純白の毛を艶良く保つ為にと、栗色の毛をクルクル巻いたアヤコが用意してくれる。

二階の出窓で昼寝をし、ベランダの植木で爪を研ぐ。

何不自由ない生活だけど、誰も私に話かけない。

それどころか、この家では話し声を滅多に聞かない。

私も自分の声を忘れそうなくらいだ。

 そんなある日の朝、アヤコは玄関の扉を全部開け

「さぁ、好きな所へ行って」

と、私に言った。

そして、私が肉球に触れる感触を確かめながら外へ出るなり、バタンッと大きな音を立てて扉を閉めた。

アヤコ達は車に乗って出て行き、私は窓越しに見てきた世界へとひとり放り出された。

   雨が降っている。

こんな日に、“好きな所へ”と言われても、この家以外に快適な場所など知らない。

道に出て立派な我が家を見上げ、表札が無くなっている事に気付いた。

   私は捨てられたのだ。

 冷たい雨が、いつからか艶を失っていた毛を濡らしていく。

絶望の冷たい雨。行く当ても無く歩いた。

私は、あの家に飼われ不幸だと感じた事はない。

しかし、幸せだと感じた事もなかった。

眠る場所と、食べる事に困らなかった。

でも、頭を撫でてはくれなかった。

「リコ」と、優しい目で私を呼んではくれなかった。

あの家に居るのは、私じゃなくてもよかったんだ。

私も、誰にご飯を貰ってもよかったんだ。

あの家と私を繋ぐものなど何も無かった。

だからこんな風に捨てられてしまうんだ。

歩き疲れた。空腹も通り過ぎた。

体は冷え切り、足も思うように動かない。

とりあえず休もう。雨がかからない場所で休もう。

そしたら、そのまま動けなくなるかも知れない。

もうそれでもいいか・・・。

意識が遠のく中で、やっと見つけた場所で体を丸めた。

更新日:2015-06-29 23:31:48

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