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5 (潤side)



一刻も早く智のモトに・・・

そんな想いに急き立てられて智のマンションを訪れると

エントランスでニノが俺を待っていた



「ニノ・・・?

どうしてこんなトコに?」


「智は今お風呂に入っていますから

後はよろしくお願いします

智が好きなシチューを作ってありますから

食べる時に温めて下さい

ビールとサラダは冷蔵庫に入っています

それから・・・」


「ニノは帰るつもりなの?」


「・・・私はいない方が良いでしょう?」


「・・・俺はね、でも智には帰るって言ってないんだろ?

言ってるならこんなトコで俺を待つ必要なんてないもんな」


「・・・・・・。」


「でもさ、俺は智に『カズが黙って帰っちゃった』って泣かれたり

落ち込まれたりするの嫌だからさ

帰るなら智の顔見て、ちゃんと『帰る』って、言ってから帰れよ」


「・・・・・・。」


「その後で何処に行こうがニノの勝手だけどな

兎に角さ、早く部屋に行こう

智は今、普通じゃないんでしょ?

あんまり独りにしない方が良いんじゃない?」



悔しいけど・・・解ってる

智にはニノじゃないとダメな時があるって・・・



普通の状態でない時に

ニノが黙って帰ってしまえば智は動揺するだろう

智と2人っきりになりたくない訳じゃないけど

こんな風にニノを帰しちゃいけない・・・って

俺の中で何かが警告するんだ

















部屋に入れば案の定

智が呆然と座り込んでいた

その目にはいっぱい泪を溜めて・・・



「智・・・?」


「カズ・・・いないの・・・かず・・・

潤くんも・・・・・・おいら・・・」



智の頬を泪が一筋スーっと落ちる

それがあまりに綺麗過ぎて・・・思わず息を呑む



でも・・・

智の瞳には目の前にいる俺は映っていなくて・・・

こんな智をどう扱ったら良いのか解らなくて戸惑ってしまう



「智、大丈夫・・・俺は此処に居るから

ごめんね、ちょっと下に潤くんを迎えに行ってただけだよ」


「・・・・・・。

・・・カズ・・・?」



ニノが智を抱き締めると

智は微かに正気を取り戻した様に見えたけど

まだしっかりと意識が戻った訳じゃなくて

智の瞳に俺は映っていなかった



智はニノの腕の中で静かに泪を零しながら

次々と不安を口にする



それを聴きながら

俺は智にどれだけ愛されていたのか

不安を与えていたのか思い知らされる・・・



そしてニノが俺の存在を受け入れ

今の関係を続けている理由が解るような気がした



「智、大丈夫・・・俺は何処にも行きませんから

何があってもあなたを愛していますよ

俺も・・・潤くんもね」



まるで呪文の様に繰り返されるニノの言葉を

俺は黙って聴いていた・・・























「ニノ・・・智は・・・

あれは単なるヤキモチなんてレベルじゃない

智は何故あんな風に・・・?」



泣きながら眠りに落ちた智をベッドに寝かせて

俺はニノを問い詰める



「・・・私の計算違いです

まさかあれ程思い詰めていたなんて・・・

すみませんでした

Jの言う通り引き返して来て良かった」



ニノの表情は少し硬くて

いつもの余裕は感じられなかった



「・・・智は以前酷く傷付いた事があって・・・

そのトラウマで自分は愛する資格も

愛される資格もない人間なんだと

思い込んでいるんです・・・」



智には俺の声が届いていないって事・・・?

一体何があった・・・?



「今は・・・それ以上は訊かないで下さい

時期が来れば話しますから・・・」



ニノ自身も辛そうで

それ以上追及するのは諦めざるを得ないだろう



「・・・あの人から手を引くなら今の内ですよ?」



手を引く? 俺が? あの人から・・・?

俺を試すニノの言葉・・・

今更それを言う?



「俺が手を引くなんて

これっぽっちも思ってもいないクセによく言うよ」



そう答えると、ニノはホッとした様に笑って

俺にひとつキスをくれた













更新日:2015-07-01 21:07:02

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