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ひっそりとしたキャンプ場

挿絵 320*180

黙々と草をはむ彼女たちに別れを告げて、今日泊まろうと思っていたキャンプ地に向かう。
空は相変わらず、雲が多めで肌寒い。もしかしたら雨が降るかもしれない。早めに着いて、設営を終えて、のんびりしよう。
今日はとにかく、ゆっくり過ごしたいのだ。
私が初めてソロキャンプツーリングをしたこの場所は管理人もおらず、トイレと水場だけのひっそりとしたキャンプ場。案の定、今日のような平日は他の客などは皆無で、時折地元の人が軽トラックで通り過ぎる程度。静かで野鳥の鳴き声しかしないような穴場だ。

私は大抵、誰もいないような場所で泊まることが多いけれど、この静かな環境が、本当にありがたい。
普段の、いろいろな音に囲まれた、せわしない慌ただしい日々から離れて、こんな風に、小鳥の鳴き声しかしない場所で、ゆっくりのんびり流れる時間を見つめるのは最高の贅沢に感じられる。
ソロキャンプの良さの一つは、この静寂、という流れゆくひと時を味わえることではないだろうか。ラジオを愛用する人も多いけれど、私は人工音を求めることはない。
野鳥の声と、せせらぎの音と、かすかな風の音だけで、十分だ。

昼に飲んだ一本のビールで、少しだけ気持ちよくなって、ハンモックの中で包まれる感じを味わいながら、少しだけまどろんでみる。
自分の中で張りつめていた何かが、少しずつ緩んでいくのがわかる。

ふと気が付くと夕食の準備をする時刻となっていた。
実際には何時でも構わない訳だけれど、明るい照明を持ち歩かない身としては、まだ明るいうちに食事や片付けを済ませたいのだ。
私の照明器具は小さなLEDのライト。灯油ランプ、オイルランプもあるけれど照明というより雰囲気づくりのようなもの。そして焚き火の明かりがなければ作業などほとんどできない。

明るいうちに食事がすめば、夜の長い時間をゆっくりと楽しむことができる。
最近は、タブレットをハンモックに持ち込んで小説を書くのが楽しい。
家でも書く機会はあるけれど、こうして、実際に野外で過ごしている時間のほうが集中できるし、想像力が膨らむから、私にとっては有意義な過ごし方となっている。

ひとりの時間をどう過ごすかは全くの自由で、天気がよければ、星空を撮影したりもするけれど、今夜のような雨が降りそうな夜は、ことのほか筆が進むのだ。

このキャンプ場はアカマツやコナラ、白樺など、美しい木が多い。地面は柔らかめの土で、虫もこの時期思いのほか少ない気がする。
小さな羽虫が少しいたけれど、頭からすっぽりかぶる虫よけネットのおかげで快適に過ごせた。

今回は、オートバイにするか、車にするか、前日まで迷っていた。一日目の予報は曇り時々晴れ、二日目は曇りのち雨予報だった。そして前日は丸一日雨だったから、薪も湿っていることも予想できた。変わりやすい天気だから当日も雨が降るかもしれない。車で行けば薪も持って行ける。
でも・・・いろいろ考えた結果、やはり、オートバイで行こうと決めたのだ。

これまでは雨の予報の時は車でいいや、と考えていたし、迷うこともほとんどなかった。けれど、今回はなぜか、オートバイで行きたいという気持ちのほうが勝っていた。
帰りが雨になるかも・・・それでも、構わない。という気持ちだった。
寒い時期と違って、たとえ降っても、濡れるだけだし。と思う。
雨具も持っているし、それほど恐れる必要もないだろうと思えた。

雨降りの中でのオートバイのキャンプは、まだ、経験はない。夜に降られたということはあったけれど、朝方にはやんでいたから、濡れることもなかった。

以前に、警報が出るほどのものすごい土砂降りの中でタープを張ってテント設営をしたことがある。
もちろん車だったけれど、柔らかい砂のような地面で、テントはともかく、タープを張るためのペグが効かないような場所だった。ムササビタープとDDタープをうまく組み合わせて張ろうとして、ムササビタープを2回も張り直しをしたことがある。
テント部分とタープ部分にどうしたら隙間なく、うまく雨が流れるようになるか、間隔や角度を調整するのがとても難しかった。土砂降りの雨の中、カッパを来てひとり黙々と作業した。
ペグが効かないから、大きな石にロープを結んで何とか張り終えた。
完成するころに雨が小やみになって、真夏なのに気温は結構低かったけど汗なのか雨なのかわからないような水分で全身濡れていたっけ。

そんな苦労をしてまでキャンプをするの?と言われそうだけれど、私にとっては、ものすごく貴重な経験だった。寝泊まりする部分がどんな地形か、雨が降ったとき水が溜まらないかどうか、水はけが良いかどうか、地面を見て、想像力を働かせて、判断しなければならない。


更新日:2015-06-29 14:00:46

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2015年6月 梅雨寒の中でソロキャンプ