- 4 / 238 ページ
「どうしたんだいフローラ?さっきミラダ婦人とすれ違ったけど、…まさか取り引きの御断りでもあったのか?」
「……それのほうが、よっぽど良かったかも……。」
「……?」
はああ、と深ーい溜め息をつく娘の姿をみて、ワンダはただただ首を傾げるばかりであった…。
*
「…というわけなの。」
閉店の札を出して、店の奥の部屋でフローラから今までの事を聞いたワンダは、むむ…、と頭を抱えてしまった。
「確かにそれはなかなかの難題だな…。」
「でしょう?」
「それにしても、ブランディア家からの見合いとはなあ…。」
「お父様、ブランディア家をご存知でしたの?」
「一般常識として一応な。…しかしそれほどの地位の御方が、うちのようなしがない商人の娘など相手にするものなのかなあ…。」
…一般常識…、ですか…。
私ブランディア家の事など婦人に言われるまですっかり忘却してましたよ、はい。
父親の言葉にちょっと落ち込んでしまったフローラ。
「そうなのよね〜、何か婦人の話では今までのお見合いを悉く断っているというし…、
私の推測だけど、そのマリウスという人って、単に結婚したくないだけなんじゃないかなあ、って思うの。」
「ふむ、それは一理ある。」
そこでフローラははっと気付いた。
「そうよ、相手のほうが結婚する意思が無いのなら、いくら見合いしても一緒じゃない!」
「?」
「何の事は無いわ!
相手が結婚する意欲が無いのだから、当然私の見合いも断るに決まっているじゃない!」
…全くもって御都合主義に至ったフローラ。
「まあ、もしマリウス様が結婚を嫌がっているなら、そうなるだろうな…。」
…そうよ!何も悩む必要なんて無かったわ。
相手が結婚する気が無いなら、お見合いしようが何しようが意味無いんだから!
あー、少しでも悩んで損した。
「フローラ…、」
「心配かけてごめんなさいお父様、
…まあ、お見合いに断られたというレッテルはついてしまうけど、今までのものに比べたら軽いものよね。」
「……。」
今までのもの、
それが、以前あった婚約話を相手のほうから一方的に解消させられた事ということに気付いて、父親は胸を痛めた。
「それにしても『サンシリア』って言ったら、王族や貴族や官僚御用達の、王都でも1、2位を争う程の高級カフェじゃないの。そんな場所を確保出来るなんて、流石高位に名を連ねる官僚様だわ。」
そう、その店は名前こそは知ってはいたが、余りの価格と品格の高さに店内はおろか、その前の通りを通ることさえ憚らせるほどのものであった。
「どうせ断られるものなら、折角の機会だし、超一流のカフェの雰囲気を存分に堪能してくるわ。あー、楽しみになってきたわ。」
「……。」
にこやかに笑うフローラとは対照的に、ワンダは何やら胸騒ぎがしてならないという風に、その表情を硬くしていた。
「……それのほうが、よっぽど良かったかも……。」
「……?」
はああ、と深ーい溜め息をつく娘の姿をみて、ワンダはただただ首を傾げるばかりであった…。
*
「…というわけなの。」
閉店の札を出して、店の奥の部屋でフローラから今までの事を聞いたワンダは、むむ…、と頭を抱えてしまった。
「確かにそれはなかなかの難題だな…。」
「でしょう?」
「それにしても、ブランディア家からの見合いとはなあ…。」
「お父様、ブランディア家をご存知でしたの?」
「一般常識として一応な。…しかしそれほどの地位の御方が、うちのようなしがない商人の娘など相手にするものなのかなあ…。」
…一般常識…、ですか…。
私ブランディア家の事など婦人に言われるまですっかり忘却してましたよ、はい。
父親の言葉にちょっと落ち込んでしまったフローラ。
「そうなのよね〜、何か婦人の話では今までのお見合いを悉く断っているというし…、
私の推測だけど、そのマリウスという人って、単に結婚したくないだけなんじゃないかなあ、って思うの。」
「ふむ、それは一理ある。」
そこでフローラははっと気付いた。
「そうよ、相手のほうが結婚する意思が無いのなら、いくら見合いしても一緒じゃない!」
「?」
「何の事は無いわ!
相手が結婚する意欲が無いのだから、当然私の見合いも断るに決まっているじゃない!」
…全くもって御都合主義に至ったフローラ。
「まあ、もしマリウス様が結婚を嫌がっているなら、そうなるだろうな…。」
…そうよ!何も悩む必要なんて無かったわ。
相手が結婚する気が無いなら、お見合いしようが何しようが意味無いんだから!
あー、少しでも悩んで損した。
「フローラ…、」
「心配かけてごめんなさいお父様、
…まあ、お見合いに断られたというレッテルはついてしまうけど、今までのものに比べたら軽いものよね。」
「……。」
今までのもの、
それが、以前あった婚約話を相手のほうから一方的に解消させられた事ということに気付いて、父親は胸を痛めた。
「それにしても『サンシリア』って言ったら、王族や貴族や官僚御用達の、王都でも1、2位を争う程の高級カフェじゃないの。そんな場所を確保出来るなんて、流石高位に名を連ねる官僚様だわ。」
そう、その店は名前こそは知ってはいたが、余りの価格と品格の高さに店内はおろか、その前の通りを通ることさえ憚らせるほどのものであった。
「どうせ断られるものなら、折角の機会だし、超一流のカフェの雰囲気を存分に堪能してくるわ。あー、楽しみになってきたわ。」
「……。」
にこやかに笑うフローラとは対照的に、ワンダは何やら胸騒ぎがしてならないという風に、その表情を硬くしていた。
更新日:2015-07-14 12:48:47