官能小説

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きゅう

フローラは目の前のソファーにいる身なりの良い、狐のような狡賢い目付きをした細い線の老人の男、ドーハムを忌々しく睨み付けていた。

「何の用、とはな。…儂が茶を飲みにだけにここに来るとでも思っているのかい?」

ふふん、と嫌味な笑みを浮かべてフローラを上から下まで舐め回すように見ていたドーハム。

「お前の親父さんがうちから借りた金の返却期限が今日までなのさ。」

「!?」

…な!?

「ば、馬鹿な事を言わないで!誰があんたなんかからお金を借りるものですか…!ねえ、お父様?」

「……。」

フローラはドーハムと反対側のソファーに座る父親のほうを振り向き、そう問いただしたが、父親は暗い表情のまま否定もせずに、ただ黙って俯いているだけだった。

「そんな、嘘でしょうお父様?!」

「嘘なものか、ほれ、ここにちゃあんと証書もある。」

勝ち誇ったように、ドーハムが胸元から証書を取り出してフローラの目の前に突き出すように見せつけた。

「…!」

驚き、食い入るように、その証書の文章を読むフローラ。

「な、何よ、お金を借りたって言ったって、ほんの500金貨じゃないの。
それくらいならほら、今日の出稼ぎで稼いできてるから今すぐ返せるわよ!」

「馬鹿かお前!4年前に借りた金だぞ。それなりの利息をつけて頂くのが筋だろうが。」

「!」

だらりとテーブルの上に足を投げ出してソファーに座っていたドーハムそっくりの顔と姿をした息子が、フローラのほうを向いて怒りをこめて叫んだ。

「利息、それに4年前って…。」

…確か4年前って、私が婚約解消金を持ち出して家出して、娼婦やっていた時期、

唖然とするフローラに、若い男は馬鹿にした冷ややかな視線を向けて話し出した。

「この親父さんは行方不明になった娘を探すのに必死になって、商売なんかそっちのけになってしまったのさ。」

「な…!」

「娘を探しているせいで、商売が出来ないから収入が無くなって、仕入れ金を払うのに必要に迫られて、いろんな所から金借りてたけど、いよいよ切羽詰まって俺のところから金を借りたのさ。
泣けるよなあ。愛する娘の為にそこまで出来る父親の深ーい愛情、
なのに当の娘は娼婦宿で数多の男に身体を開いて悦んであんあん喘いでいる有り様。全く親不孝な娘だよな!」

「…!?」

そう言って息子は勝ち誇ったように高々と笑いだした。

息子の言葉に、周りにいた野次馬からはざわざわとざわめきと、フローラに対して軽蔑とも嫌悪とも取れる視線が向けられた。

…この男!何でそんな人のことを恥ずかしげもなく暴露して!

だが、奴の言ったことは全て本当のことなのでフローラは何ひとつ言い返すことが出来なかった。

…何てこと、全て私のせいなのね。
私のせいで、お父様はアンブル商会なんかからお金を借りてしまって、そして今までずっと苦しんできていたのね!

「お父様…、」

「違うフローラ、お前のせいではない、お前の、せいでは…、」

父親のワンダは後悔の為にか、だけど娘を庇うようにただ項垂れて、フローラにそう呟いた。

…お父様…、

「いくらなの、いくら払えば良いのよ?」

悔しくて情けなくて、だがフローラは俯きながらも静かにそう呟いた。

更新日:2015-08-29 13:23:47

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