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はち
お見合いをした日から10日余りが過ぎたその日、
「……。」
いつものように、閑古鳥がずっと鳴いていて、誰も居ない店内でフローラは椅子に座って退屈そうにぼーっ、と店番をしていた。
…結局、あの後にブランディア家やマリウスから何も連絡も無く、お見合い自体破談となってしまったのだとフローラは勝手に解釈していた。
…ミラダ婦人も何も言ってこないし、ブランディア家やあの糞マリウスからも文句も何も言わないから、終わったということで良いのよねー?
ああ、今更だけどあの『サンシリア』のケーキ、美味しそうだったわよねー、
あの時は無茶苦茶動揺して、後からは腹が立ってしまったからついつい食べ損ねたけど、沢山食べておくべきだったわねー、
あんなに残してさっさと出ていってしまったのは失敗だったわ!
そんな変な事まで考えながら、フローラふわあ…、と退屈な余りに恥ずかしげも無くおおきな欠伸をひとつしてしまう。
『ちりりん…、』
突然店の扉が開く音が聞こえてきて、フローラは慌てて姿勢を正してお客様を迎えた。
「いらっしゃいま、せ。…あら、ルイさんでしたか。」
そこから現れたのは、洒落た格好をした小柄な中年の男性だった。
「おやフローラちゃん、独りで店番かい?親父さん居るかい?」
ルイと呼ばれた男性はにこにこしながらフローラに話し掛けてきた。
輸入業を営む彼はここエンパルス商店に格安で布地や糸を提供している業者のひとりである。
「ええ、でもごめんなさい、父は今外回りをして留守にしています。何か急ぎの用事ですか?」
すると男はふう、と疲れたように溜め息をついて、どかっと近くにあったソファーに座った。
「そっかあ、ワンダ氏は留守かあ…。」
残念そうに呟くルイに、フローラは店の奥でいれた紅茶を差し出した。
「どうぞ。」
「お、ありがとう。」
フローラからお茶を受け取ったルイはごくごくと勢いよく紅茶を一気に飲み干してしまった。
「それにしてもルイさんがここに来られるなんて珍しいですわね。」
お茶のおかわりをつぎながら、フローラがふと呟いた。
「いや、ちょっと親父さんに用事があったから。」
「もし私で良ければ用件をお伺いしますが…、」
フローラはちょっと控えめにそう言ってみたが、
「いや、直接親父さんと話がしたいんでね、忙しいところ悪かったね、また来るよ。お茶ご馳走さん。」
やっぱり、あっさりと断られてしまった。
「いえ、父にはルイさんが来たことを伝えておきますね。」
ソファーから立ち上がって店の出口に向かったルイをフローラは付き添って見送った。
「……。」
ルイの姿が見えなくなると、フローラは扉を閉めながらふう、と溜め息をついた。
…やっぱり自分には伝言のひとつも頼まれないのね。
家の商売の手伝いをして3年近く経ったが、まだまだ未熟さは否めず、このような些細な事でも任せて貰えない。
…私は、本当に商才があるのかしらね?
「……。」
いつものように、閑古鳥がずっと鳴いていて、誰も居ない店内でフローラは椅子に座って退屈そうにぼーっ、と店番をしていた。
…結局、あの後にブランディア家やマリウスから何も連絡も無く、お見合い自体破談となってしまったのだとフローラは勝手に解釈していた。
…ミラダ婦人も何も言ってこないし、ブランディア家やあの糞マリウスからも文句も何も言わないから、終わったということで良いのよねー?
ああ、今更だけどあの『サンシリア』のケーキ、美味しそうだったわよねー、
あの時は無茶苦茶動揺して、後からは腹が立ってしまったからついつい食べ損ねたけど、沢山食べておくべきだったわねー、
あんなに残してさっさと出ていってしまったのは失敗だったわ!
そんな変な事まで考えながら、フローラふわあ…、と退屈な余りに恥ずかしげも無くおおきな欠伸をひとつしてしまう。
『ちりりん…、』
突然店の扉が開く音が聞こえてきて、フローラは慌てて姿勢を正してお客様を迎えた。
「いらっしゃいま、せ。…あら、ルイさんでしたか。」
そこから現れたのは、洒落た格好をした小柄な中年の男性だった。
「おやフローラちゃん、独りで店番かい?親父さん居るかい?」
ルイと呼ばれた男性はにこにこしながらフローラに話し掛けてきた。
輸入業を営む彼はここエンパルス商店に格安で布地や糸を提供している業者のひとりである。
「ええ、でもごめんなさい、父は今外回りをして留守にしています。何か急ぎの用事ですか?」
すると男はふう、と疲れたように溜め息をついて、どかっと近くにあったソファーに座った。
「そっかあ、ワンダ氏は留守かあ…。」
残念そうに呟くルイに、フローラは店の奥でいれた紅茶を差し出した。
「どうぞ。」
「お、ありがとう。」
フローラからお茶を受け取ったルイはごくごくと勢いよく紅茶を一気に飲み干してしまった。
「それにしてもルイさんがここに来られるなんて珍しいですわね。」
お茶のおかわりをつぎながら、フローラがふと呟いた。
「いや、ちょっと親父さんに用事があったから。」
「もし私で良ければ用件をお伺いしますが…、」
フローラはちょっと控えめにそう言ってみたが、
「いや、直接親父さんと話がしたいんでね、忙しいところ悪かったね、また来るよ。お茶ご馳走さん。」
やっぱり、あっさりと断られてしまった。
「いえ、父にはルイさんが来たことを伝えておきますね。」
ソファーから立ち上がって店の出口に向かったルイをフローラは付き添って見送った。
「……。」
ルイの姿が見えなくなると、フローラは扉を閉めながらふう、と溜め息をついた。
…やっぱり自分には伝言のひとつも頼まれないのね。
家の商売の手伝いをして3年近く経ったが、まだまだ未熟さは否めず、このような些細な事でも任せて貰えない。
…私は、本当に商才があるのかしらね?
更新日:2015-08-15 09:51:51