• 8 / 19 ページ

広い檜風呂だった。
バシャバシャと顔を洗う。
鏡の中に素顔の自分を見る。
すこし疲れた顔をしていた。
まだ夜は長い・・・。
ため息をついた時だった。

「しょおくん、終わった?」

「あ、はい」

「こっちにおいで」

檜の浴槽に浸かっている智に呼ばれ、翔は智の元へ向かう。
浴槽に入るか迷っていると、智の手が翔に伸ばされた。
そのまま手を取れば、湯船に入るように導かれる。

「そこ、段になってるから気をつけて」

「はい」

ゆっくりと足を入れれば、すぐに足がつく。
そこに智が座っていることを確かめた翔は、智の左側に腰を下ろした。

「広いでしょ、この風呂」

「……はい」

「一人で入るには広すぎるよな」

「……はい」

この家の風呂には入っているが、こことでは倍以上に広さが違う。
そこに一人で入る智を思い浮かべる。
今座っている所が智の定位置なのかもしれない。
この位置は風呂が余計に広く見えそうだと、翔は思った。

「これからは、しょおくんが一緒なんだな」

そこはハイ、とは言えなかった。
三日間が終われば、こんな家に長居は無用。
とっとと出て行くつもりだった。
忌まわしい記憶を消すために。

更新日:2015-06-30 22:12:57

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook