• 6 / 19 ページ

この家にはあまり似合わない、洋間だった。
普段は暖かい日差しに包まれて、穏やかな空間を作っているであろうその場所で、ソファに座ってニノを睨んでいた自分と、そんな翔を笑顔で見ていたニノ。
そこには穏やかな空間は、なかった。

「おわかり、いただけましたか?」

「……わかりました。俺がその要求を飲めば、全てを白紙にしてくれるんですね?」

「頭のいい人は話が早くて助かります」

「で、その要求とはなんですか?俺は早く済ませて、元の生活に戻りたいのですが」

「簡単な事です。一ヶ月ここに住んでもらって、大野智って人の花嫁になってもらいます」

「な、何?もう一度言ってください」

大野智は男の名前に聞こえた。
その花嫁だから間違ってはいない。
問題はそれに自分が関わっている事だ。
自分はオトコで。
花嫁には、なれない筈だ。

「大野智ってオトコの花嫁になるんですよ」

「何を言ってるんですか?俺はオトコで花嫁じゃなく花婿です」

ニノは翔を一瞥しただけで話を続けた。

「大野の家には花嫁の儀式がありましてね」

「俺は花嫁じゃない」

翔の言葉は、無視された。

「三日三晩、子を孕む為に抱き合うんですよ」

「だ、きあう?ちょっと、待ってください。俺に、オトコと……セックスして、子供を産めと?」

「まあ、平たく言えばそうです」

「産めるわけがない!俺はオトコだ!なんでそんな茶番に付き合わなきゃならない!」

声を荒げる翔に対して、ニノは冷静な声で言った。

「なぜ?あなたはわかってるはずです。それに……あなたは従うしかないんですよ……俺に選ばれたんだから」

翔は、ニノを睨む事しか出来なかった。

「返事は、はいか、いいえの、どちらかしかないんですよ。あなたが、いいえを選べばどうなるか、わかってるはずです」

翔は唇を噛み締めた。

「こんな茶番に付き合わなきゃいけないのか……」

小さな声だった筈なのに、ニノには聞こえていた。

「そんな事は、俺だってわかってるんですよ。さあ、返事は?」

更新日:2015-06-26 20:29:11

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook