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緑が多い大野の屋敷を出れば、無機質なビル群が翔を迎える。
タクシーで飛んでいく景色をぼんやりと眺めながら、翔は考えていた。



「イトコに会いに行きなさい、翔ちゃん。多分彼の方が翔ちゃんより詳しくここの内情を知ってる。秘書課に入ってるって時点で、彼はあいつに目をかけられてます」

ニノにワイシャツを渡され、着替えながら翔は聞き返した。

「どういう、こと?」

「秘書課っていうのは、あいつを守るためのもの」

「守る?」

「そう、あの会社は、内にも敵が多いんです。あいつを社長の座から引き摺り下ろしたい分家の奴らがたくさんいる」

ニノは鼻で笑った。

「自分たちの都合で、あいつを呼び寄せたにもかかわらず、です……おっと話が逸れましたね。あいつが信頼できる者しか置いてない、それが秘書課です。仕事も多岐に渡るので、人もかなり厳選してるはずなんですが……あっさりと入れるって事はそれだけ松本って人は優秀なんでしょう」

ニノに褒められて、翔は我が事のように嬉しく、誇らしくなってしまう。

「翔ちゃんがそんな顔するなんてね」

ニノは呆れた顔をしていた。
スーツの上着を羽織れば、一ヶ月前の、仕事に行く自分の姿。
思えばあの頃がやけに懐かしく感じる。

「俺の知り合いに会えれば、秘書課にはすぐ行けます」

「会えれば?」

「ええ、あの人も忙しくしてるみたいなので、なかなか捕まらないんですよ」

「もし、会えなかったら?」

「あなたの花婿の耳に入るまで、入り口で粘ってください」

にっこりとニノは笑った。



作戦とも言えない作戦に、縋るしかない。
不安な心を隠して、翔はビルの前に立っていた。
何階建てだかわからないビル。
そのビル全てが、大野の会社。
それに挑むように翔は大きく息を吐き、ビルに向かって歩き出した。

更新日:2016-03-12 19:05:40

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