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特別な場所を守るには?
「ありがとうございました」
今日も部活が終わり、一年生は後片付けをし、残った二・三年生は疲れた足取りで部室に戻る。
しかし、帰りの号令がかかっても、部室は多くの部員でごったがいしていて着替えなど出来るわけがない。だからレギュラー陣がコートに残るのはいつものことで、竜崎もそこは黙認していた。
菊丸と大石はコート内でフォーメーションの打合せ、桃城と越前は、不二と川村を相手にラリーを始めた。手塚はベンチに座って日誌書きをし、乾は竜崎とともに今後のトレーニングの打合せに行く、そして海堂はクールダウンの為、一人ランニングに出かける、これが青学のいつもの光景だった。
海堂はもくもくと走って、とある場所で足を止めた。自分達しか知らない秘密の場所。そこからは山あいに陽が沈むのが良く見えた。
この、陽が沈みそうで沈まない時間、夕焼けが夜と交わるほんの少しの時間が海堂は好きだ。
前に、乾にそんなこと言ったら、次の日のクールダウンの時に、この場所を教えてくれたのだった。
疲れた体に心地よい風が吹き、目の前には夕方とも夜とも区別のつかない神秘的で穏やかな光景。海堂は何も考えず、ただそれを見ていただけだったが、頭の中が癒されていく感じがした。
どれくらいそうしていただろうか、気が付けば陽はすっかり沈んでいて、辺りはお化けが出そうなほど暗い。こうなると、海堂の心臓は瞬時に早鐘のように脈打つ。
「そういえば・・・・・・」
こんな時に思い出すのは決まって良くないこと。しかし、思い出してしまったからにはもう遅い。昼休みに乾と屋上で昼食をとってクラスに戻ると、その話題で持ちきりだった。
「見たやつがいるんだってよ」
「西側の外れだろ」
「この時期に幽霊かよ」
近づいて話を聞くほどでもないと気にも留めなかったが、今、まさに学校の西側の外れにいる海堂は、その次の『幽霊』という単語を思い出してしまったのである。
そしてその時、目の前の草むらが、ガサガサッと音をたてたから、体が硬直してしまった。そして、その音はどんどんこちらに近づいてくる。あまりの恐怖に目はそこから離せないし、体の震えも止まらない。胸の動悸がより一層早くなり、気を失いそうになる瞬間。
「海堂?」
現れたのは乾だった。
ペタリと座り込んで安堵の表情を見せる海堂に近づいて、その形のいい頭をコツンと殴った。
「いつまでも帰ってこないから、心配したじゃないか。まあ、ここだとすぐに思ったけど、ほら帰るよ?」
手を差し出されたものの、その手は取らずに、泣きそうな、それでいて苦しそうな顔をする。乾は海堂を落ち着かせるために、そっと口づけをした。
優しく、ついばむように何度も何度も、唇を奪う。そのうちに口づけは深くなり、ついには海堂の両手が乾のシャツを握りしめた。
「・・・・・・んっ」
海堂が夕焼けの沈む瞬間が好きなことや、お化けを苦手としているのは、テニス部の中でも乾しか知らないマル秘情報。
そして、この場所を乾が教えたということはそれなりの策略があったからに違いないのだが、そんなこと、海堂が知るはずもなかった。
今日も部活が終わり、一年生は後片付けをし、残った二・三年生は疲れた足取りで部室に戻る。
しかし、帰りの号令がかかっても、部室は多くの部員でごったがいしていて着替えなど出来るわけがない。だからレギュラー陣がコートに残るのはいつものことで、竜崎もそこは黙認していた。
菊丸と大石はコート内でフォーメーションの打合せ、桃城と越前は、不二と川村を相手にラリーを始めた。手塚はベンチに座って日誌書きをし、乾は竜崎とともに今後のトレーニングの打合せに行く、そして海堂はクールダウンの為、一人ランニングに出かける、これが青学のいつもの光景だった。
海堂はもくもくと走って、とある場所で足を止めた。自分達しか知らない秘密の場所。そこからは山あいに陽が沈むのが良く見えた。
この、陽が沈みそうで沈まない時間、夕焼けが夜と交わるほんの少しの時間が海堂は好きだ。
前に、乾にそんなこと言ったら、次の日のクールダウンの時に、この場所を教えてくれたのだった。
疲れた体に心地よい風が吹き、目の前には夕方とも夜とも区別のつかない神秘的で穏やかな光景。海堂は何も考えず、ただそれを見ていただけだったが、頭の中が癒されていく感じがした。
どれくらいそうしていただろうか、気が付けば陽はすっかり沈んでいて、辺りはお化けが出そうなほど暗い。こうなると、海堂の心臓は瞬時に早鐘のように脈打つ。
「そういえば・・・・・・」
こんな時に思い出すのは決まって良くないこと。しかし、思い出してしまったからにはもう遅い。昼休みに乾と屋上で昼食をとってクラスに戻ると、その話題で持ちきりだった。
「見たやつがいるんだってよ」
「西側の外れだろ」
「この時期に幽霊かよ」
近づいて話を聞くほどでもないと気にも留めなかったが、今、まさに学校の西側の外れにいる海堂は、その次の『幽霊』という単語を思い出してしまったのである。
そしてその時、目の前の草むらが、ガサガサッと音をたてたから、体が硬直してしまった。そして、その音はどんどんこちらに近づいてくる。あまりの恐怖に目はそこから離せないし、体の震えも止まらない。胸の動悸がより一層早くなり、気を失いそうになる瞬間。
「海堂?」
現れたのは乾だった。
ペタリと座り込んで安堵の表情を見せる海堂に近づいて、その形のいい頭をコツンと殴った。
「いつまでも帰ってこないから、心配したじゃないか。まあ、ここだとすぐに思ったけど、ほら帰るよ?」
手を差し出されたものの、その手は取らずに、泣きそうな、それでいて苦しそうな顔をする。乾は海堂を落ち着かせるために、そっと口づけをした。
優しく、ついばむように何度も何度も、唇を奪う。そのうちに口づけは深くなり、ついには海堂の両手が乾のシャツを握りしめた。
「・・・・・・んっ」
海堂が夕焼けの沈む瞬間が好きなことや、お化けを苦手としているのは、テニス部の中でも乾しか知らないマル秘情報。
そして、この場所を乾が教えたということはそれなりの策略があったからに違いないのだが、そんなこと、海堂が知るはずもなかった。
更新日:2015-06-11 21:35:07