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「俺、高校辞めるわ」
「もうええって」
「いやいや、まじで。起業するわ」
「勝手にやめてくれ。そして勝手に起業してくれ」
「待てや!後悔するぞ!俺と仲良くしとけって」
「もうええから(笑)」
「起業のアイデア聞きたいやろ」
「聞いたるから、聞きおわったら、高校やめてくれ」
「待てや!話おかしいやろ!」
「ははは!なんやねん。早よ言えや」
とある高校のとある教室で、どこにでもいる、ふざけあうことが大好きな同級生2人。

タクトとマサシ。
「タク、よく聞けよ。密室の中に、ラーメンみたいな体臭の奴と、ギョウザみたいな体臭の奴を閉じ込めるねん。」
「もうこの時点で聞く気なくなってきた

「待て待て!タク、ここからやがな。で、お客さんは、その部屋に入って、そのラーメンとギョウザのにおいをつまみに、生ビールを注文して、酒を飲むっていう店や。店側からしたら、廃棄処分したり、食材のコスト管理をする必要がないから、酒だけ出せばええねん。」
「ギョウザみたいな体臭の奴をどうやって探すねん」
「アホやな、お前は。体臭は作れる、やで。」
「かわいいは作れる、みたいに言うな!なんやそれは」
「毎日ギョウザだけを食わすねん。そしたらギョウザみたいな体臭になるに決まってるやろ」
「なるほどな。聞いたから高校やめろよ」
「早い!まだ最後まで喋ってへんやん!」
「なんやねん、聞いたやんけ(笑)、もう!ラーメンみたいな体臭の奴も、ラーメンばっかり食わすんやろ?頑張ってくれ!高校やめてくれ!」


と、その時だった、梨のようでもあり、葡萄のようでもあり、とにかく甘い香りがタクトとマサシの鼻腔をくすぐった。

クラスのマドンナ、ユカリちゃんがいつの間にか2人のそばに来ていたのだ。

「2人とも、なんの話してるの?ウチにも教えて」
「え、えっと、いや、ユカリちゃん、あのー、そのー、大した話じゃないねん」
「え、でも、なんか、マサシくんが高校辞めるとか、聞こえちゃったから。大した話やん」

タクトは吹き出した。マサシがユカリのことを好きなことを知っていたからだ。そして、ユカリはマサシが言うような冗談が一切通じないということも。
ユカリは、図書館で本を通じて知り合い、お付き合いをして、そして結婚する、そんなイメージを男子生徒たちが話するような、黒髪の美少女だった。
一見地味であり、美少女であるということがわかりにくく、高校を卒業して、お化粧なんかを覚えたら、男がほうっておかない女になる、そう、マサシは力説していたし、その評は正しかった。
「マサシ、さっきの起業の話、もう一度俺にも聞かせてくれよ。ユカリちゃん、マサシは高校を辞めて、起業家になるんや。だから、悲しい別れやないんやで」
可笑しくてたまらないのをこらえながら、そう話すタクトを横目で軽くにらみながら、マサシは焦った。

図書館が似合う、この黒髪の美少女に、今の話をしたら、絶対に嫌われてしまう。なんとかして、この話を変えられないか。
17歳。恋よりもお笑いのノリ、女友達より男友達、優先順位を守ることによって、生きてきたマサシにとって、もはや、逃げるすべはなかった。どうにでもなれ!

「聞いてくれ!ユカリちゃん、俺、高校辞めて起業家になるねん」
そこからのマサシは、怒濤の勢いで話した。ユカリに相づちや質問をはさませてたまるかという投げやりさで、口から唾をとばしながら、一挙にまくしたてた。笑いのセンスがもし同じであっても笑えないぐらい、狂人のような目つきと乗ってきた指揮者のような激しいアクションで、マサシは話をした。

「ギョウザだけを食わせて、ギョウザみたいな体臭のやつをつくりあげるねん。あと、ラーメンばっかり食わせて、ラーメンみたいな体臭のやつをつくりあげるねん。ほんで、ほんで!そいつらを密室にとじこめて、そこにお客さんをいれて!ほんで!ほんで!体臭のにおいをおつまみに、生ビールを飲ませる店をオープンするねん!だから高校辞めるわ!イェーイ!」
マサシは教室の中を走り出した。

「起業家としての、興奮を抑えられない!うおーっ!走ることでしか、この喜びを表現できない!うおーっ!」
クラスの男子の数人はゲラゲラ笑い、ほとんどの人間は、ひいていた。
マサシはゲラゲラ笑っている数人だけにターゲットをしぼり、とうとう、教室を飛びだし、そのままグラウンドを走り出した。
ユカリのほうは、もちろん、チラリとも見なかった。笑ってるわけはないと思ったし、事実、ユカリは、新しい生き物を見るような目で、マサシを見ていた。
笑いをこらえながら、タクトは聞いた。
「ユカリちゃん、あいつ、どう思う?」
ユカリは、静かに答えた。
「クスリをやってると思う」


と、その時、グラウンドのほうから、ロードライトガーネットの赤い光がさしこみ、ユカリの頬を染めた・・・・

更新日:2015-05-04 13:15:47

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ベロにちょっとだけあててからかける男