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敗戦の地となったライブハウスのすぐ近くにある24時間営業の都内某所の喫茶店。
重苦しい敗戦の雰囲気をあざ笑うかのように、店内には、はずむようなシャンソンの音色が響く。

富永警部は、時間の感覚を、いや、重力すらなくしたような気だるさを感じ、それでいて、体の重さを感じながら、手をつけていないアイスコーヒーの水滴を見つめていた。

重苦しい雰囲気を打破するように突然かぶりを振ると、写呂久探偵に尋ねた。

「写呂久さん、今回の事件は、一体どういうことなんですか?も、もう、私の子供たちは、帰ってこないのでしょうか?私には、何がなんだか。」
「君、私には、逆に、この事件は、とるに足らない単純な事件に思えてきたよ。」
富永警部は、少し驚いて、ハッと目を見開いた。
写呂久探偵が見せるこの自信。事件が解決に導かれる前にいつも漂う、あの雰囲気だった。

突如、富永の口の中に、生きたアイスコーヒーの味が蘇った。

「か、簡単ですって?」
「うむ。敵の巨大さ、その悪魔的な智略には、相変わらず、かつてない壮大なスケールの脅威を感じるがね。事件自体は簡単だ。君も気づいたように、時系列ムチャクチャマンと名乗る男は、ハクション中西なんだが、彼の様子について、どう思う?」
写呂久探偵に言われて、富永は思い出した。

更新日:2015-05-09 08:28:12

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ベロにちょっとだけあててからかける男