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今日も軍団の朝礼が始まる。
全身赤づくめの衣装を着たボスがいつもの通り、号令の指揮をとる。
「ひとーつ!マジシャンが使うリンゴを見て、おいしそうとかコメントする奴ーっ!」
「変な奴ーっ!」
「ひとーつ!『ケータイがない』って言うから、みんなで探してあげてるのに、いつの間にか普通にケータイ使ってて、『ケータイあるやん』と言うと、『あるで』と普通に返事する奴ーっ!』
「変な奴ーっ!」
「ひとーつ!」

・・・・


号令は続く。
この朝礼の時に毎回やる号令は、ボスの判断により、セリフ内容が定期的に変わる。今まで集めた変な奴のデータを分析して、ポイントの高いものは、優先的に、この号令の文に加えられたりするのだ。
号令が終わる。
自分が捕まえた変な奴が号令の文に採用されていて誇らしげな軍団員もいれば、自信があったのに、採用されていないことで、心なしか肩を落とす軍団員もいる。これもいつものこと。
いつもと違う点は、なんとなく、軍団員たちが感じている、ボスの機嫌が悪いということだった。

「お前らに、今日は言いたいことがある。」
来た。声は抑えてはいるが、怒っているのが分かる。
「新人の軍団員もいるから、根本的な話から、確認するわな。ええか?変な奴を集めて、世界征服をするために、お前たちは、いや!我々は!活動してるわけや。そこはええな。」
「はいっ!」
軍団員たちは一斉に答えた。
「ええか?お前ら、新しい世界作りたいんやろ?どうなんやーっ!」
「はい!作りたいです!」
「真剣にやっとんか!お前ら!」
「はい!」
「じゃあ、変な奴って、一体なんやーっ!?どういう奴を変な奴と言うんやーっ!!把握しとんのか、貴様らーっ!」
途端にアジトは静まり返った。
7、6、5、4、3、2、1。
ゆっくりと心の中で数え、ボスは言った。
「きつく言って、ごめんなちゃい!」
なんてかわいいんだ!軍団員たちは、ボスの持つ愛くるしいまるまるとしたおめめ、愛くるしいおてて、愛くるしい表情、愛くるしい声のトーンにうっとりした。まるでお母さんのお腹の中でふわりふわりと浮かんでいた頃のようだ。
軍団員たちは全員、よだれをダラダラと垂らし、涙を流した。
うっとりしすぎたあまり、その場で脱糞する者までいた。
ボスは、口調を元に戻し、続けた。
「ええか?変な奴って言っても、大物と小物ではえらい違いなんや。大物は50ポイントぐらいの変な奴もいる。小物は1ポイントか、それにも満たないぐらいの変な奴、もはや普通の奴やないかってレベルの奴もおるわけや。わかりやすく言うと、世界征服するために必要なポイントが1万ポイントぐらいは最低いるんや。今、集まってるポイント、なんぼやと思う?そこのお前!」
「は、はい!768ポイントです。」
「そうや。圧倒的に足りんよな?なんでかわかるか?」
ボスはゆっくりと見渡した。全員が目を合わさないようにしている。
「お前らが1ポイントぐらいの奴ばっかりしか集められてへんからやろがーっ!」
シーンと静まり返るアジト。ボスは、あごひげを触ってみた。自分が手を動かしたその指先に、軍団員たちの視線が集まるのを感じた。手応えはありだ。ここからは、落ち着いたトーンで、軍団員たちの臍の少し下らへんにある、丹田に響くように話せばいい。
「ええか?お前ら、変な奴というイメージがバラバラやねん。別に1ポイントの奴を集めたらあかんとは言ってないよ?問題は、1ポイントのやつを集めるのに、労力と資金を使いすぎてるってことやねん。わかるか?」
ボスはここで、優しく微笑んだ。ボスのまんまるいおめめが、糸のように細くなった。

更新日:2015-05-08 14:02:43

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ベロにちょっとだけあててからかける男