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都内にある某お風呂屋さんのロッカーにて。
「いや、もうお前、気をつかいすぎやって。今から風呂いっしょに入るのに、そんな気を使っても、楽しくないやろ(笑)」
「いや、兄さん、ほんま、尊敬してるんで、気を使ってるとか、そういうつもりじゃないんですよぉ。」
「やめろ、やめろ(笑)」
まんざらでもなさそうに隆は笑うと、手慣れた様子で服を脱ぎだした。
「兄さんの漫才観て、僕、いつも勉強させてもらってますからねえ。」
インディーズお笑いライブ、“万華鏡”の終わりのかすかな疲れを感じながら、則夫は服を脱いだ。
「マジで気をつかうなよ、もう。気をつかったら、次から誘わん。」
「あー、はい!そ、それは嫌なんで(笑)。あ、あの、タメ口でいくわ。これから。」
「なんでやねん(笑)。いや、ええよ、ほんま、そんな感じで。」
「ははは。」
その時である。隆の調子が変わった。
「あれ?お前、なんか、乳首、下のほうにあるなあ。」
「えっ?あ、はい。そうなんすよ。なんか、下のほうにあるんすよ。」
「なんで、先、言わへんねん。」
「え?いや、言わなあかんのっすか、これ(笑)」
「いや、笑ってるけど、マジやぞ。先輩やぞ。それは、先言わなあかんやろ。」
「え?ほんまに怒ってます?なんて、言えばいいんすか?僕、乳首が下のほうについてるんですけど、いいっすか?とか?」
「もうええわ、お前。金だけやるから、一人で風呂入って、一人で帰れや。」

その時であった、隣で着替えていたビール腹のおっさんの外しかけたベルトから、ロードライトガーネットの赤い光が射し込んだ。
「いーっやっほーう!乳首が下のほうにある奴ゲットーっ!くききききーっ!乳首が下のほうにある変な奴だーっ!そして、これは、自分へのご褒美だーっ!」
叫びながら、男は女子風呂の方へ走っていった。

更新日:2015-05-05 06:50:39

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ベロにちょっとだけあててからかける男