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その時、トマトが爆発した。それが全てのはじまりだった。

突然のことだった。


1989年、この組織は、まだ悪の組織ではなかった。ビニールハウスで野菜を育てている農家たちに協力を得て、実験をする研究団体に過ぎなかった。
当初の研究は、野菜の栽培とクラシック音楽の関係性だった。クラシック音楽を聴かせると、なぜか野菜の生長がよくなるという話を聞いたことのある人も多いだろう。人間は、愚かな生き物である。万物の霊長たる自分たち、ホモサピエンスなる種しか、音楽を聴いて癒されたりはしないと高を括るが、そんなことはないのである。
バッハ、モーツァルト、シューベルト、リスト、歌謡曲、音楽というジャンルなら、なんでも聴かせ、その発育、生長ぶりを比べた。
それは、初代所長の思いつきだった。音楽というものの深淵さをその健気な魂で受けとめることが可能であるならば、人間の感情、機微なども、受けとめることができるのではないか?
2020年を超える頃から、人間の間でしか、分かり合えないとされた、様々な感情や機微と植物、野菜の生長の関係の研究がなされた。

ビニールハウスの中で告白し、振られるという状況を見せた時、トマトたちは、どうなるか?
ビニールハウスの中で、ゲイはカミングアウトをしたり、罪人たちに懺悔の会を開いたりした。

人間の感情や機微を植物たちに受け取りやすい信号に変える装置も発明され、2030年を超えると、この研究は劇的、爆発的に進化した。
そして2038年のその日、トマトは爆発した。トマトの傍らには、“変な奴”の亡骸があった。


初代所長は、安心、安全な農作物を作るために研究をしていた。この研究所は、人類に貢献するための志をもった組織だった。
しかし、2038年、トマトの爆発の件以来、研究は、その攻撃力、破壊力に労力を費やされることになったのだ。
そして、二代目所長の悪魔的性格により、組織は悪の組織となるのだ。

2042年。変な奴を集め、世界征服を目指す悪の組織はこうして誕生した。世界征服を実現させるような“大規模な爆発”を起こすには、大量の変な奴が必要だ。
今日も軍団の朝礼が始まる。
「ひとーつ!ピンポンダッシュする奴より!」
「される奴のほうが変な奴!」
「ひとーつ!『俺は犯人じゃないよぉ』というリアクションが変な奴は、犯人か、または!」
「犯人じゃない変な奴!」
「ひとーつ!変な奴は、ひょんなことで!」
「パトカーに乗れたりする!」
「よし、お前ら!変な奴を探せーっ!」
「イーッ!」

全身を赤にまとったボスは、軍団たちが足早に出かけるのを見届けると、横にいる男に言った。
「変な奴はあと何人必要なのだ?」

更新日:2015-05-04 13:22:56

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ベロにちょっとだけあててからかける男