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第5章 慎一

あの日

あの女からの電話が来るまでは

「俺は幸せだ」と自分の幸福を疑いもしなかった。

2歳年上の才能ある妻と2世帯住居の新居。

やりがいのある仕事に恵まれた環境。

それが虚構だと目の前に突き付けられたのは、あの女からの電話だった。

「お宅の奥さんと、うちの夫が不倫しています。

別れる気はないと、一緒になりたいと言っています。」

耳を疑った。

「あなた何言ってるんですか?」と笑い飛ばした。

「先週の日曜も留守でしたよね、主人と一緒に温泉に行っていたのです。」

「えー?」背中から冷や汗が出る。

「年末も、お泊りでお芝居見物に行っています。」

「何?」心の中でいろいろなことがぐるぐるとまわっている。

思い当たる節はある、あれこれ疑いが浮かんでは消える。

「奥様が今、私の家に向かっています。ご足労ですが、ご主人も来ていただけませんか。4人で話しましょう。」

何だと!!!!!何を言っているんだこの女は。

うちののり子が私と別れてこの女の旦那と一緒になると言っているだなんて。。。。。

夢を見ているようだった。

悪い夢を見ているようだった。

夢なら覚めて欲しいと願った。

のり子に電話する。

お話し中で繋がらず、イライラする。

何回か後にやっと繋がった!

「今、お前が不倫していると、不倫相手の女房って女から電話が来たぞ」

「・・・・・・」

「おい、黙っていないで何か言えよ」語気が上がる。

「今、先方の家に向かっているの。話し合いに行こうと思って。」

「話って、何だよ!お前が俺と分かれてそいつと一緒になるって言ってるって、そう言ってるぞ!」

「・・・・・・・」

「何で黙るんだよ、ちゃんとっ答えろよ!お前、そんなこと言ったのか?!」

「だから、話し合いに・・・・」

「だからじゃないよ!すぐ家に帰れ。俺も年休貰って帰るから。」

「・・・・・」

「詳しい話はそれからだ!わかったな!!!」

「・・・・・わかった」妻が小さい声で答えた。



心臓が破裂しそうに早打ちしている。

内容が内容なので車の中で電話をかけていたが、

なかなか車から出られない。

とにかく、落ち着かなければ。

妻が不倫をしていることは、どうやら本当の事らしい。


動揺を隠し、有給を申請するために何とか、職員室に戻る。





更新日:2015-06-07 21:45:03

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不倫の代償~吉澤典子の罪と悪~