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「爺々様、これ以上探す所…あるの?」
マキと梅がこう尋ね、伝右エ門は少し含み笑いを見せた。
久しぶりに、子供達に囲まれての話合いが、彼には迚も嬉しかったのだろう
。
「山は広い、それ以上探すとすれば、わしの思惑から随分離れることになる。わしの予定外の範囲を越えてしまえば、先ずは白い崖が移動しない限り不可能じゃの?…」
「爺々様が、発見されたと云う川を遡れば、白い崖があるんじゃ…ないの?」
梅が得意そうに、そう云った。
「ハハハハーー。それがどんなに探しても、あの近辺の川を探しても、何処にも鳥に似た白い崖何んか、何処にも無いんだよ!」
余程可笑しかったのだろうか、伝右エ門は大きな声で笑った。
大人の視線から見れば、当たり前の探索だったからだ。
村中を上げての捜索にも限らず、今だに白い崖も、白い化身・白獣の白毛も姿さえ掴めていない。正に伝説の白毛に外ならなかった。
「でも爺々様が貰ったという、縄の首輪と小石は?その後どう何ったん?」
「それっきり、今でも判らないの?。何んでお爺々にそんな物をくれたんだろうね?」
安吉が地図から目を離し、こう問い掛けると、ツルもそれに言葉を添えた。
「首輪は灰になったし、小石は…何処かへ落とした様だ?。子供のわしには、あの姫君が呉れたのは、何故なのか?後になって思うんだが、わしが大人になったら、首輪と小石を持って申一度来い。と云う意味だったのか?と、今ではそう思っている」
伝右エ門が、此処で言葉を切ると、後ろの仏壇へ顔を向け、左端に置いてある。あの先の欠けた白い牙を見つめた。
「わしは今でも覚えて居るんだが、あの小石は…石では成かった様な気がする?」
更新日:2016-04-22 21:47:53