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今泉探偵員と名乗った赤い服の女は、エレベーターを下り、大丸百貨店の玄関から、表通りの賑やかな歩道へと出た。
駅の方へ十㍍ほど行った所で、ポケットから名刺を取り出し、そして立ち止まると、その名刺をビリビリと破り、小さくなった名刺を空に向かって放り投げた。
パラパラと紙吹雪のように、風に乗って名刺は散っていった。
「ごめんなさいよ、お二人さん。それにしても彼奴、一体…何処に居るんだろうなー。順一は?、折角…山下恵子を見付け出したと云うのに、その彼女も又行方不明とはね?…。どうしよう?。又…行き詰まりだわー」
赤い服の女は、そう言って駅の方へと歩き出した。
その山下恵子が、厚東家の財宝…金の鶏探しに紛争している事など、彼女はまだ知る由もなかった。
電話を掛け終えた好子は、敏子の所へ戻って来ると、
「やっぱり電話は、他人の名義の家だったよ。偽電話だったよ。この名刺はにせ物だわ」
好子はそう言って、名刺をテーブルの上へ投げ付けた。
「じゃー恵子の事をワザワザ聞く為に、偽の名刺を使って…来たって事?何んで…」
「何んでだろう?ね…」
二人は顔を見合わせると、急に立ち上がり、店の窓側へと走った。
その窓から下を見下ろすと、赤い服の女が、駅の方と歩いて行く後ろ姿が小さく見えた。
その姿も軈て人混みの中へと吸い込まれ、二人は、ただア然とした疑問だけを残され、見送っていた。
「なんでー……恵子大丈夫かなぁー」
そう呟いていた。
更新日:2017-05-22 04:44:59