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ソファのひじ掛けに身体をもたれさせながら本に読み耽る。
父さんが買ってきてくれたミステリー小説だ。
日本ではまだ未翻訳の作品、これがかなり面白い。

けれども、半分ほど読み終えると俺は本を閉じた。

正面を見れば、同じくソファのひじ掛けを背にして彼女が本を読んでいる。
ショートパンツから伸びた素足が少々目の毒だ。

真夏の炎天下、灰原が外へ出たがるはずがない。
それなら家でのんびりしようかとダラダラと本を読み始めた。

母さんに催促されるまでもなく、俺も彼女を旅行に誘う気でいた。
ただ、なかなか言い出すチャンスがなかったのだ。

でも、今なら……
今日はチャンスかもしれない。

俺としても早く彼女とキス以上の関係になるきっかけが欲しかった。
別に焦る必要などないのだが、最近はキスだけで満足できない自分がいる。

彼女のもっと奥深くに触れてみたい。

「なあ、灰原」と彼女の近くへと移動する。

「あのな、灰原、話が……」と彼女の足元に腰を下ろす。

しかし、彼女は俺の気配を無視するように本を読み続けている。

分厚い原書のタイトルを見れば、『宇宙物理学の世界』
また小難しい本だ。
アメリカへ行く前は『遺伝子科学』だった。

(なるほどな、灰原、読めたぜ! オメーのやってる極秘プロジェクトは──
NASAが捕獲した火星人の研究だろう)

なーんてな……あははっ、ふざけてる場合じゃねぇ―。

俺は彼女の本を取り上げた。

「ちょっと! 何すんのよ」
「俺、オメーの名前を何度も呼んだだろう」
「だって、読んでる途中だったんですもの」

ほら、しっかり聞こえてたじゃねーか。

「貴方、もう読み終わったの?」

「いや、まだだけど……後で読むよ。オメーにちょっと話があるんだ。
こっちに座らないか?」

俺の隣を指し示す。

「何よ、話って」と少し警戒しながらも彼女が俺の隣に腰を下ろした。

「あのさ、灰原……オメー、海へ行きたくないか?」

彼女がチラッと俺を一瞥したかと思うと冷たく言い放つ。

「行きたくないわね。海なんか行ったら、日焼けするじゃない?」

「じゃあ、プールは? 屋内プールなら日焼けもしないで泳げるぜ」

「別に行きたくないわ。だって、私、泳げないもの」

「それなら温泉はどうだ? 温泉なら泳げなくても溺れないぜ」

さすがに不審に思ったのか彼女が俺を睨みつけてくる。

「いったい何なの?」

「だから……あのよ、俺と一緒に旅行に行かねーか?」

お盆休み中は部活も一週間の休みがある。

「お盆休みなんてどこも混んでるんじゃないの?」

ちょっと待っててくれと俺は一旦リビングから出ていく。

更新日:2018-06-17 21:26:43

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