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クム・グァンス
85.クム・グァンス①
ハン・バンウォン神龍隊大将軍。
最近、わずらわしいことになっている。
御前試合に全勝してから、バンウォンは首領から絶大な信頼を得ていた。階級は大将軍となり、警護責任者と同等になった。大将軍は他にも何人かいる。
しかし、首領と接触する機会が多い分、最高官僚である中央党書記官ですらバンウォンには一目おく。まして一般の官僚ともなればなおのことだ。
これまでバンウォンには見向きもしなかった各級の官僚たちが急に近づいてきた。挨拶だと称して自宅に手土産を持って来るのだ。絶対に受け取るなと家人に厳命しているが、中には強引に置いて帰る者もいる。
こういった連中は、人が落ち目になった途端にあっという間に去って行く。おいしい蜜の出る間だけ花に群がる虫みたいなものだとバンウォンは思っていた。
昨夜も二人来ていたが、相手にしなかった。
今、バンウォンは自分の執務室にいた。
たいてい外の勤務だが、ここ2週間はここに詰めている。
「バンウォン大将軍同志。これをご覧ください!」
突然ドアが開いて人が飛び込んで来た。
第2大隊長だった。 興奮してビニール袋を差し出した。
「何かわかったのか、大隊長同志」
「失礼しました。これです!」
見ると、ビニール袋には、1cm四方の破紙片が多数入っていた。
「なんだ?」
「はい。回収したゴミから出ました」
「ゴミ?」
「手紙のようです」
「ほう。誰のだ?」
バンウォンは興味がわいた。
「ソク・ジョンス国家安全保衛部第2副長同志であります」
大物だ。まだ何かがわかったわけではない。うかつに手は出せない。この手紙をなんとか復元したい。
「おい、大隊長同志。これをすぐ復元させてくれ」
「はい。承知いたしました」
「まだ誰にも言ってないだろうな」
「はい。私が発見いたしました。誰にも言ってません」
「よし。ご苦労。まだ誰にも言うな」
回収したゴミから手紙が出たのは始めてだった。張り付いて2週間目のことだ。これまでに判明したのは、側室を持っている官僚が11名いたことだけだった。他には、何の動きもなかった。隊員に、焦りが出始めていたところだ。
第2大隊長が見つけた手紙が突破口になればいいのだが、とバンウォンは思った。
2週間前。
「官僚の中に裏切り者がいる。つまみ出せ」
バンウォンは、首領の執務室に呼ばれて命令を受けた。
神龍隊は、首領から直接命令を受ける。命令がないときは、首領の護衛をする。首領が移動するときには必ず50人態勢で臨む。首領は、何万人相手に外で演説する機会が多いが、このときは500人全員態勢だ。つねに民間人の中に分散し紛れ込む。
そうしろと言われたわけではないが、表立っての警護は特殊部隊が行っているからだ。特殊部隊員は総勢2万人だ。このすべてが首領と首領家族のための警護隊員だ。しかし、警護隊に最終的な皮一枚のところまで信頼をおいていないのか、それを埋めるのが神龍隊だと首領に言われた。
だが、今回のような仕事は珍しい。本来なら国家安全保衛部が受け持つ内容だ。秘密警察があるからだ。神龍隊に命令されたのにはそれなりの理由があるのだろう。
しかし、一体誰が裏切っているのか。首領を心酔しているバンウォンには、裏切る気持ちというものがまったく理解できなかった。
ハン・バンウォン神龍隊大将軍。
最近、わずらわしいことになっている。
御前試合に全勝してから、バンウォンは首領から絶大な信頼を得ていた。階級は大将軍となり、警護責任者と同等になった。大将軍は他にも何人かいる。
しかし、首領と接触する機会が多い分、最高官僚である中央党書記官ですらバンウォンには一目おく。まして一般の官僚ともなればなおのことだ。
これまでバンウォンには見向きもしなかった各級の官僚たちが急に近づいてきた。挨拶だと称して自宅に手土産を持って来るのだ。絶対に受け取るなと家人に厳命しているが、中には強引に置いて帰る者もいる。
こういった連中は、人が落ち目になった途端にあっという間に去って行く。おいしい蜜の出る間だけ花に群がる虫みたいなものだとバンウォンは思っていた。
昨夜も二人来ていたが、相手にしなかった。
今、バンウォンは自分の執務室にいた。
たいてい外の勤務だが、ここ2週間はここに詰めている。
「バンウォン大将軍同志。これをご覧ください!」
突然ドアが開いて人が飛び込んで来た。
第2大隊長だった。 興奮してビニール袋を差し出した。
「何かわかったのか、大隊長同志」
「失礼しました。これです!」
見ると、ビニール袋には、1cm四方の破紙片が多数入っていた。
「なんだ?」
「はい。回収したゴミから出ました」
「ゴミ?」
「手紙のようです」
「ほう。誰のだ?」
バンウォンは興味がわいた。
「ソク・ジョンス国家安全保衛部第2副長同志であります」
大物だ。まだ何かがわかったわけではない。うかつに手は出せない。この手紙をなんとか復元したい。
「おい、大隊長同志。これをすぐ復元させてくれ」
「はい。承知いたしました」
「まだ誰にも言ってないだろうな」
「はい。私が発見いたしました。誰にも言ってません」
「よし。ご苦労。まだ誰にも言うな」
回収したゴミから手紙が出たのは始めてだった。張り付いて2週間目のことだ。これまでに判明したのは、側室を持っている官僚が11名いたことだけだった。他には、何の動きもなかった。隊員に、焦りが出始めていたところだ。
第2大隊長が見つけた手紙が突破口になればいいのだが、とバンウォンは思った。
2週間前。
「官僚の中に裏切り者がいる。つまみ出せ」
バンウォンは、首領の執務室に呼ばれて命令を受けた。
神龍隊は、首領から直接命令を受ける。命令がないときは、首領の護衛をする。首領が移動するときには必ず50人態勢で臨む。首領は、何万人相手に外で演説する機会が多いが、このときは500人全員態勢だ。つねに民間人の中に分散し紛れ込む。
そうしろと言われたわけではないが、表立っての警護は特殊部隊が行っているからだ。特殊部隊員は総勢2万人だ。このすべてが首領と首領家族のための警護隊員だ。しかし、警護隊に最終的な皮一枚のところまで信頼をおいていないのか、それを埋めるのが神龍隊だと首領に言われた。
だが、今回のような仕事は珍しい。本来なら国家安全保衛部が受け持つ内容だ。秘密警察があるからだ。神龍隊に命令されたのにはそれなりの理由があるのだろう。
しかし、一体誰が裏切っているのか。首領を心酔しているバンウォンには、裏切る気持ちというものがまったく理解できなかった。
更新日:2019-02-16 15:30:52