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神龍(シェンロン)
64.神龍(シェンロン)①
北朝鮮特殊部隊の存在は、早くから広く知られている。その数は20万人と言われており、その実力は、アメリカ最強軍団デルタフォースに匹敵するとも言われていた。
だが、本当の特殊部隊員は2万人だけで、20万人いるのは人民軍だということは、北朝鮮でも一部の人間しか知らない。人民軍の20万人を特殊部隊員として公表し、本物の特殊部隊員2万人は本部隊員と呼び、このことは国外には秘匿していた。
この本部隊員2万人はそれぞれ一騎当千の強者ぞろいで、個々の力量はデルタフォース以上だという自負を、北朝鮮首脳部は持っていた。それに対し、人民軍は、軍事活動よりも一糸乱れない行軍等を得意とする広報活動に力点を置いたパフォーマンス部隊だった。
神龍(シェンロン)。
この名を知るものは少ない。
本部隊員から厳選の上に厳選された精鋭中の精鋭軍。その軍団の名が 神龍だ。
隊員数500名。
ハン・バンウォン。35歳。
神龍隊長だ。
夕方4時。
バンウォンは、今朝は9時から首領室の前に昼食もとらずに立っている。
アポイントは警護責任者を通して取ってある。呼ばれるのを待っているのだが、後から来た上級幹部が何人も首領室に入ってはしばらくしたら出て来る。朝から何人入って行ったのだろうか。10人以上は入っている。しかし、もうすぐ呼ばれるはずだ。首領の執務は夕方5時で終わる。今4時だ。だから、もう呼んでもらえるはずだ。
2年前。
バンウォンは本部隊に入隊して15年。首領に忠誠を誓い必死の思いで精進してきたかいがあって、上級軍人まで上り詰めた。平民の身分で上級まで上りつめる例は、稀有だった。
上級軍人に昇級して間もなく、夜中の12時頃、党書記から電話があった。
「非常招集がかかったのですぐに来い。1時までにだ。わかったか」
こんな真夜中に呼び出しとは何事だ。それも、本部隊長からではなく党機関の最高幹部である党書記からの直接の電話だ。もしかすると、首領に謁見するための秘密指令か。
北では、たとえ軍の最高幹部でさえ、呼び出しの目的や行先など前もって知ることはできない。李王朝の始まりのころ、非常招集といって呼び出され、何の疑いもなく真夜中に家を出て、そのまま粛清された者が大勢いた。バンウォンには、粛清されるような思い当たることが全くなかった。
党の事務室に出向くと、首領の警護司令部の軍人に引き継がれた。誰も知らない場所にこっそり移動するのだ。警護司令部の軍人と一緒に必死に走って党まで行くと、党書記が正門で待っていた。後について門に入ると、軍服に革のベルトをX字に掛け、両脇に拳銃を下げた軍人が数十人いた。
庭に10台ほど止めてあった車の1台の前まで行くと、そこに警護責任者がいた。警護責任者は、党書記をあごで使っていた。泣く子も黙るという党書記が、警護責任者の前では子供のようだった。
警護司令部の軍人が全員あわただしく車に乗った。バンウォンは、持ち物検査をされてから車に乗せられた。車の窓には分厚い黒いカーテンがしてあり、運転席との間にも同じカーテンがしてあった。外が全く見えない仕様だ。
「移動中はカーテンを開けてはならない。わかったか!」
隣に座った軍人がそう言ったとき、車は出発した。
北朝鮮特殊部隊の存在は、早くから広く知られている。その数は20万人と言われており、その実力は、アメリカ最強軍団デルタフォースに匹敵するとも言われていた。
だが、本当の特殊部隊員は2万人だけで、20万人いるのは人民軍だということは、北朝鮮でも一部の人間しか知らない。人民軍の20万人を特殊部隊員として公表し、本物の特殊部隊員2万人は本部隊員と呼び、このことは国外には秘匿していた。
この本部隊員2万人はそれぞれ一騎当千の強者ぞろいで、個々の力量はデルタフォース以上だという自負を、北朝鮮首脳部は持っていた。それに対し、人民軍は、軍事活動よりも一糸乱れない行軍等を得意とする広報活動に力点を置いたパフォーマンス部隊だった。
神龍(シェンロン)。
この名を知るものは少ない。
本部隊員から厳選の上に厳選された精鋭中の精鋭軍。その軍団の名が 神龍だ。
隊員数500名。
ハン・バンウォン。35歳。
神龍隊長だ。
夕方4時。
バンウォンは、今朝は9時から首領室の前に昼食もとらずに立っている。
アポイントは警護責任者を通して取ってある。呼ばれるのを待っているのだが、後から来た上級幹部が何人も首領室に入ってはしばらくしたら出て来る。朝から何人入って行ったのだろうか。10人以上は入っている。しかし、もうすぐ呼ばれるはずだ。首領の執務は夕方5時で終わる。今4時だ。だから、もう呼んでもらえるはずだ。
2年前。
バンウォンは本部隊に入隊して15年。首領に忠誠を誓い必死の思いで精進してきたかいがあって、上級軍人まで上り詰めた。平民の身分で上級まで上りつめる例は、稀有だった。
上級軍人に昇級して間もなく、夜中の12時頃、党書記から電話があった。
「非常招集がかかったのですぐに来い。1時までにだ。わかったか」
こんな真夜中に呼び出しとは何事だ。それも、本部隊長からではなく党機関の最高幹部である党書記からの直接の電話だ。もしかすると、首領に謁見するための秘密指令か。
北では、たとえ軍の最高幹部でさえ、呼び出しの目的や行先など前もって知ることはできない。李王朝の始まりのころ、非常招集といって呼び出され、何の疑いもなく真夜中に家を出て、そのまま粛清された者が大勢いた。バンウォンには、粛清されるような思い当たることが全くなかった。
党の事務室に出向くと、首領の警護司令部の軍人に引き継がれた。誰も知らない場所にこっそり移動するのだ。警護司令部の軍人と一緒に必死に走って党まで行くと、党書記が正門で待っていた。後について門に入ると、軍服に革のベルトをX字に掛け、両脇に拳銃を下げた軍人が数十人いた。
庭に10台ほど止めてあった車の1台の前まで行くと、そこに警護責任者がいた。警護責任者は、党書記をあごで使っていた。泣く子も黙るという党書記が、警護責任者の前では子供のようだった。
警護司令部の軍人が全員あわただしく車に乗った。バンウォンは、持ち物検査をされてから車に乗せられた。車の窓には分厚い黒いカーテンがしてあり、運転席との間にも同じカーテンがしてあった。外が全く見えない仕様だ。
「移動中はカーテンを開けてはならない。わかったか!」
隣に座った軍人がそう言ったとき、車は出発した。
更新日:2015-09-18 14:50:57