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X地点

53.X地点①

 韓国。

 5日で 戻ったのは、日本に帰国した昂胤たちだけだった。ダンは、一瞬意外そうな顔をしたが、何も言わなかった。

 翌日にゴードンが戻り、七日目には全員揃った。

 その翌日からまた訓練が始まった。

 最後の訓練だという。

 各自与えられた荷を持ち、チームごとに行動し速やかにX地点に集合せよ、とだけ言い残してダンは消えた。


 昂胤のチームは、山脈の密林に来ていた。

 うっそうとしており、昼でも薄暗い。

 ここはX地点。

 ここに来るのは二度目だ。

 まだどのチームも来ていない。

「すぐかかれ」

 昂胤はキャンプ地作りを命じた。


 X地点まで持参するようあらかじめ準備されていたかなり重量のある七つの特大のリュックの中身を、出発する前に昂胤は皆に確認させていた。

 どのカバンも中に入っていたのは、銃器と実弾だった。他に、ノストスコープやナイフ、トランシーバーなど、必要なものが一通り入っていた。

 一つのリュックには、そのほかに通信機器とパソコンとバッテリーが入っていた。

 訓練と言いながらこの仕様は尋常じゃない。

 しかし、とやかく言ってみても始まらない。X地点に皆が集合すれば、ダンから説明があるだろう。それまでは決して油断できない。ダンは甘い男じゃない。何を考えているのか分からないが、ダンなら中途半端なことはしない。 何が始まるにしろ体を鍛えておくことだ。

 昂胤のチームは、これまで生死すれすれの訓練を積んできた。生きるための死ぬほど過酷な訓練だ。それについては昂胤には自負があった。

 キャンプ地作りも訓練の一環だ。戦地でのキャンプ地作りは発見されないことが絶対条件で、周辺には何ヵ所も仕掛けをこしらえる。しかも時間をかけていられない。

「ボス。俺は何をすれば?」

 セオが訊いた。

 昂胤のチームでセオだけが特異な存在だった。他のメイトは傭兵出身で肉体派だが、セオはパソコンおたくで頭脳派だ。しかし、遅れながらだが訓練にはついてきている。その点を昂胤は評価していた。

「いつもと同じだ。皆を飢えさせないようにしてくれ」

 基本的に食事の支度は当番制にしていた。だが、セオは器用だった。それにセオは、自分で工夫して作ったオリジナル香辛料を瓶詰めにし、常に身につけていた。それで味を調える。この香辛料が実に絶妙なのだ。少なくなれば、自分で採ってきた薬草に何かを加えて味を調え、自分の瓶詰めに補てんする。

 薬草が何で何を加えているかは、絶対誰にも教えない。もともとチームで一番料理の腕がいいセオだが、そのうえこの香辛料があるため、メイトは誰もがセオの料理を食べたがる。いつの間にか、食事はセオの仕事になっていた。

 逆に、セオにキャンプは任せられない。皆のじゃまになるだけだ。

「わかりましたボス。任せてださい」


更新日:2015-05-15 17:13:25

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❷「ウォンジャポクタン」》