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帰国

47.帰国①

 東京。

 帰国後二日目の夜。

 昨夜は、疲れきっていた。四人ともまっすぐ昂胤のマンションに直行し、そのまま倒れるようにして眠った。

 爆睡した。

 今夜は、翔子の店でパーティをしてくれるという。

 昂胤と雄大の帰国祝いと、周(ジョウ)とニックの歓迎会だそうだ。出席しないわけにはいかない。

 1日眠ったので、疲れはとれていた。

 主催者は、表面上は夕実だが、実際には翔子の招待だ。

 佐々木も来ている。葵は、仕事で欠席。珍しい客人として、中川重次郎が来ていた。翔子が連絡したときちょうど葵の会社にいたらしく、仕事で参加できない葵の代わりだそうだ。フットワークの軽い爺さんだ、と昂胤は思った。
 
  重次郎は、秘書のパクと一緒だった。パクは、去年の『瓶詰めレター』事件の仲間だ。

 重次郎が乾杯の音頭をとった。

「ご指名じゃでの。ワシが最年長じゃから、ママさんの気遣いじゃろうて」

 重次郎が立ち上がり、皆が習った。周は日本語を話すが、ニックはまったくわからない。夕実が、隣で通訳をしていた。

「本来なら、ここには葵くんがいるべきなんじゃが、あいにくヤツは忙しい。で、ワシが代理で来たというわけじゃ。まあ、ヤツが来たところで、ワシも一緒について来たとは思うがの。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」

 重次郎が話しだすと、いつも長くなる。

「爺さん、お手柔らかに頼んまっせ」

 昂胤がおどけて関西弁で言ったら、パクと雄大が、プッと吹き出した。

「外国からの客人を迎えておるでの。失礼のないようにせにゃならんけん」

 重次郎はきっすいの江戸っ子だが、いつも変な方言を使う。方言を使うのは機嫌がいい証拠だ。

「周くんとニックくんじゃったな。ようこそ日本へ」

 昂胤の冷やかしも意に介することなく、続けた。

「縁というものは不思議なものじゃて。ここにお集りの皆の衆は、それぞれ何かの縁で結ばれておる。今日ここでまた新しい出会いも生まれたじゃろう。これも縁じゃ。一生の間で出会える人の数なぞ、たかが知れておる。じゃからこそ、ワシは出会いを大切にしたいと思っておるのじゃ。新しい出会いを作ってくれたママさんに、ワシは礼を言いたい」

 重次郎は楽しそうだった。

「皆の衆、グラスの準備はよろしいかの。それじゃ、出会いを作ってくれたママさんと御一同さんの健康と幸せを祈って、乾杯じゃ!」

 え、もう終わり? と思ったのは昂胤だけではなかった。 

「かんぱ~い」

 拍子抜けするほどの短さで重次郎の乾杯の音頭が終わった。

 にぎやかに宴が始まった。

 翔子の料理を食べるのは久しぶりだ。

  さすがにおいしい。

  パクがビールを持ってやってきた。

「昂胤さん。久しぶりです」

  ビールを注いだ。

「何かおもしろそうなこと始めたみたいですね」

  しばらく日本を離れていたと聞いて、パクが言った。

「まだ何もやっちゃいないさ」

  昂胤が返杯しながら言った。

「おい、雄大」

 パクは、雄大にもビールをすすめた。

更新日:2015-05-18 19:33:54

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❷「ウォンジャポクタン」》