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マイトの執念

34.マイトの執念①

 19時。

 金浦空港に来ていた。

 教官のアンダーソンには、簡単に電話で説明してある。昂胤の事務所を拠点にしてあるので、連絡がつかないときは事務所に伝言を残すことになっている。

 昂胤は、韓国は初めてだった。

 ロビーは、大変な混みようだ。ダンがどこにいるのか、さっぱりわらない。こんな状態でダンと会えるのだろうか。

 昨夜、ダンからもらったメールには《明日、19時、金浦空港で待つ》 それだけしか書いてなかった。

 雄大のことを相談したかったが、こちらからは連絡がとれなかった。独断で連れてきたが、文句を言われりゃ帰らせればいい。そう思っていた。雄大も、ダンがダメだと言えばあきらめる、と言っている。しかし、それどころか、こんなことではダンに遇えるかどうかもわからない。と思っていたら、突然声をかけられた。

「ヘイ、昂胤。よく来たな」

 人混みの中から、いきなりダンが現れた。いつの間に来たのか、わからなかった。これが敵なら、昂胤は死んでいる。気配をまったく感じさせなかったダンに、昂胤は鳥肌が立った。自分の感覚が鈍ったとは思わなかった。それだけの修行はしているつもりだ。それとも、実戦から離れた結果なのか。

「ダン先輩。連れがいます」

 そんなことをおくびにも出さず、昂胤は、気になっていることを言った。

「いいさ。タフな野郎ならな」

 ダンは気にしなかった。

「コーインが連れてくるぐらいだから、ヤワな野郎じゃないことはわかるぜ。おぅ、新入り!」

 昂胤が紹介する間もなく、ダンが雄大の手をとった。

「ダンだ。よろしく頼むぜ」

「あ、雄大です」

 雄大はあせったようだ。よろしくお願いします、と言わなかった。雄大は普段ものおじしないが、ダンの迫力に気圧されていた。

 上背は193センチの雄大より高い。

「行こうぜ」

 そう言ってダンが歩きだしたので、二人も続いた。

 ロビーを出るとジープが止まっていて、屈強な若者がドアを開けた。ダンに続いて昂胤、雄大が乗った。運転手以外に誰もいなかった。どうやら、ダンが一人で迎えに来てくれたようだ。

 車は音もなく発進した。

「昂胤、飲めよ」

 ダンが、ウイスキーのボトルをわたした。ジョニーウォーカーの青ラベルだった。昂胤は、一口飲んで、雄大にまわした。喉が、カッと熱くなった。雄大が飲んで、ダンに返した。またまわされたが、昂胤はそのまま雄大にまわした。雄大とダンが、交互に飲んでいる。

 昂胤は、外を流れるソウルの街並みをぼんやり眺めていた。

 雄大を連れてきて良かったのか。日常会話程度ならこなすようになったから、連れてきた。そういう約束だった。

 しかし、正直、ダンが断るだろうと思っていた。いいよとあっさり言われ、拍子抜けする思いだった。



更新日:2018-12-14 10:01:41

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❷「ウォンジャポクタン」》