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25.ダンの誘い②

 屋敷に着いたらいつもの応接室に通され、待つほどもなく重次郎が現れた。

「おお、コーインくん、来てくれたか」

 重次郎は、機嫌がよさそうだった。

「ご無沙汰です、爺さん。お元気でしたか」

 昂胤は、重次郎の手を取って言った。

「ワシは、このとおり元気じゃ。おぬしは忙しそうじゃの」

 昂胤に、椅子に座るように言った。

「いやみですか。相変わらず、お人が悪い」

「おぬしの携帯にも事務所にも電話したのじゃが、つかまらんかったでの」

 事務所に電話があったのなら、夕実から連絡があるはずだ。何もなかった。しかし、重次郎がそんなウソは言わない。念のため、携帯電話を出してみた。入っていた。電話が3回。夕実からメールもきていた。

 かわいい絵文字入りで、行方不明の所長様として、重次郎に至急電話するよう書いてあった。

 そういえば、博多に来てから一度も携帯電話にさわっていなかった。

「爺さん、失礼しました。電話いただいていました。事務所からもきてました」

「ふぉっ、ふぉっ。コーインくんの秘書は、一応仕事をしているようじゃの」

 重次郎がソファに座ったので、昂胤と雄大も座った。

「この男は俺の助手で、玄(くろい) 雄大です」

 昂胤は、雄大を重次郎に紹介した。

「玄 雄大です。よろしくお願いします!」

「おお、元気のいい若者じゃ。キミも、ドイツへ行っておったのかな。見たことのある顔じゃ」

「オス。フィリピンからずっとコーインさんと一緒でした」

 何回も会っているが、重次郎の目にしっかりとは入っていなかったようだ。

「そうじゃったか。ご苦労じゃったの。瓶詰レターの謎は解明できたし、悪さ坊はとっちめたし、爽快じゃったのう。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」

 重次郎は、いかにも愉快そうに、高笑いをした。そこへメイドがコーヒーを持って入ってきた。

「そうじゃ、コーインくん。うちの向井が無理を言ったようじゃの」

「いえ。無理などと。依頼を受けた仕事は、一応終わらせてきました」

「そうか。ご苦労じゃった。じゃ、今は、体はあいておるのかな」

 重次郎が、昂胤の目をまっすぐ見つめて言った。

「はい」

 わずかだが、緊張に似たものが、昂胤の心を通り過ぎた。

 重次郎が、ゆっくり話し始めた。


 バーレーン王国。

 サウジアラビアの東、ペルシャ湾内にある群島。

 国土の大半が砂漠と石灰岩に覆われている。

 人口794,000人。

 大小33の島からなる君主制の島国。シーア派王朝。

 この国で、信じられないことが起こった。


更新日:2015-04-10 17:23:24

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❷「ウォンジャポクタン」》